桂木姫の話、五の巻
小説コン、写メコンに出した物を膨らまし詐欺。
ある有名童話をベースの平安パラレル(凄い勢いで脱線ぎみ)、出来たら上げる感じで行きます。
言葉の分からない所に辞書を引くのが億劫で今の言葉を使ってたり、適当に濁してたりする部分があるのはご愛敬。
あくまでパラレルなので信じちゃいけません。古典や歴史で書いたらマイナス確実です。
※やや急展開
once upon a time.
ある時、ネウロとあかねがまた連れだって出掛ける事となりました。
それも、昨日今日に決まった事でなく、大分前から催促があっての、それも、やや急ぎの用事のようでした。
姫は客人のいる時には、女性としての作法通りにあかねと御簾の裏側で、奥の部屋に控えています。
ですので、文を届ける遣いの者と直接に顔を合わせた事はありません。
ですが、その遣いが浮かない顔で門を潜る事、ネウロに会った後には更に浮かない顔になる事から、何か重要な内容なのではないかと考えておりました。
ある時には、ネウロが受け取った文を、毎度苦々しそうに眺めては懐に納める所を、彼の部屋へと向かい部屋を移動する時、偶然に見かけました。
「何だ、のぞき見とは下品な。貴様それでも、年頃の娘か?」
「う……うるさいなぁっ! てかそれ何さ? もしかして恋文か何か? 最近多いじゃない。あんた、こんなに根性悪いのに以外とモテるんだねぇー」
その、いつもとは違う様子に気づきつつも、姫は、あえて明るい声を出し、ネウロが普段自分をからかう時のように、わざとそう言って大げさに驚いた仕草を取りました。
「まぁ、貴様と違ってな。……やれやれ、平和主義の我が輩の元にばかり、何故にこんな苛烈な物が届くのか――」
ネウロは不機嫌に眉を寄せ、曖昧にそうつぶやいた後、今度は一転、喜々として、やれ軽口を叩いた罰だと言って、いつものようにして、姫を叩いたり頬をつねったりで誤魔化すのでした。
ネウロには気づかれぬように、通り掛かった使いの男を御簾越しに呼び止め、それとなく聞いた事もありましたが、芳しい答えが返って来る事は一度もありませんでした。
彼はただ、曖昧に笑い、「とにかく、従うようにそれとなく言ってくれねぇか?」と、余り期待をしていない様子で頼んだだけでした。
その気さくな様子に、どうやら自分の身分は彼に明けていないらしいと安心すると共に、何とも言えない不安が胸をよぎりました。
姫はそれまで、もしや、自分に関係のある事なのではないかとも考えていたのでした。
しかし、そうではなく、あれが本当に恋文だとしたら。 そして、それに「従え」という事は即ちどういう事であるか。
「あ、れ……?」
それを考えると、姫は、自分の居所が知れたかもしれないと思うよりも強く、キリキリと胸が痛んだのでした。
きっと、どちらに転んでも、ネウロやあかねと別れねばならぬせいであろう。
そう言い聞かせ、姫は単の袖でぐっと目を拭いました。 縟にうずくまり、声を出さずに衣を濡らす様子は、心細くて森で泣いていたあの時の姫自身より、あかねに覚え込まされた、恋の名歌のその様子に似ている様にも思いました。
そのうちにも、文の届く頻度はどんどんと増し、ある日、ネウロは文を懐に納めず、手の中で握りつぶしました。
その、無表情に手の中を見つめて俯きながらも、普段の白い色よりも、苛立ちで更に白さを増したように思う横顔を見つめながら、来るべく時が来たのだろうと姫は悟りました。
「……どうしたの。何か、あった?」
それでも姫は、何にも気づかない振りをし、平静の、ネウロによって唐突に手習いを邪魔された時の様子でもって答えました。
「……暫く、アカネと都へと出て来る」
「そっか……行ってらっしゃい」
そして、ネウロがいつも、森の中へ出かけるのを見送る時のように、ただ、にっこりと笑ってみせたのでした。
ネウロとあかねが出かけてしまう前に、聞かねばいけないだろうことに、考えを巡らせながら。
「明晩には戻る予定だが……留守の間に、屋敷中に見知らぬ人間を絶対に引き込むなよ?」
「あっ、当たり前じゃんっ!」
前に見かけた略式の束帯とは違い、肌小袖の上から作法通りに下カサネを着込めている途中のネウロのはそう声を掛けました。
支度を手伝うあかねと話をしながら、その様子を見上げていた姫は、急に掛けられた声に、急いで返事を返しました。
「さぁて、どうだか……」
ぼんやりとした姫の様子をどう取ったのか。あかねにホウを着付けさせながら、ネウロは大げさな溜息を付きました。
「こうして、知らぬ男の家で生活出来、御簾からたかが使いを呼び止めるほどはしたなく、そこらの男に声を掛ける貴様の事だ。……余所から男が訪ねてくればホイホイ家に上げるのではないか?」
「……」
いつものように、からかう時の楽しそうな口調でもなく、激高している様子もなく、ただ淡々と、予め書かれた歌か何かでも唱えるようなネウロの言葉に、姫は驚いて、大きく目を見開きました。
今までで一番酷いその内容以上に、使いを呼び止めた事が知られていたということ、ただ淡々と蔑まれたのだという事実が、姫の言葉を奪ったのでした。
「何だ……否定しないのか?」
束帯ほどに畏まった格好ではないにしても、いつもの直衣に下襲と冠とを身につけ、ネウロは返事の無い姫を振り返り、その瞬間に、大きく目を見開きました。
「そっ、そんな訳……な…じゃんっ!」
「弥子様っ!」
おもむろに立ち上がり、あかねの止めるより前に、姫はつい今し方、ネウロにはしたないと言われた事も忘れ、御簾を潜って、廊下へと掛け出しました。
背後であかねの止める声がした気もしましたし、何度も長袴の裾が絡まり転びそうになりながらも、姫は振り返らず、廊下をただ走りました。
目の端に移る花盛りの庭が滲んでも、袖で顔を覆う余裕なぞ、全くありませんでした。
そして、母君が亡くなった時以来に、姫は夜食を頂くことなく、縟へと籠もり続けました。
結局、何かを聞くどころか、顔を合わせないままに、姫は、明くる朝にネウロとあかねを、自分の房で夜着を頭から被って突っ伏したまま、迎えの者の牛車の音だけで見送ったのでした。
適当な用語解説:
女性が直に顔を合わせるのはふしだら。
date:不明