桂木姫の話、四の巻


小説コン、写メコンに出した物を膨らまし詐欺。
ある有名童話をベースの平安パラレル(凄い勢いで脱線ぎみ)、出来たら上げる感じで行きます。
言葉の分からない所に辞書を引くのが億劫で今の言葉を使ってたり、適当に濁してたりする部分があるのはご愛敬。
あくまでパラレルなので信じちゃいけません。古典や歴史で書いたらマイナス確実です。

once upon a time.


 それからというもの、姫はこの屋敷で暮らすようになりました。
 初めのうちこそ、どうしていいか分からないという様子であった姫も、やがて正式に喪が明ける頃には、ネウロ、あかねとの屋敷での奇妙な生活にも、すっかりと馴染みました。

「……む」
「ん、ネウロまた出かけるの?」

 朝飯を終えふと庭越しに塀の向こうを見上げ、やや険しい顔をして立ち上がったネウロに、姫はそう声を掛けました。

「うむ。恐らくはすぐ済むとは思うがな」

 あかねの用意した弓と矢を受け取り、姫を振り返ったネウロに、姫はにっこりと笑い掛けました。

「そか、行ってらっしゃい」
「………」

 ネウロはあかねから受けとった弓を担ぎながら姫の顔をまじまじと見つめ、やがて目を細めてふぅと息を吐きました。

「ん?」
「いや……歌会の色狂いどもも、今時流行の日記も、以外と馬鹿に出来ないものだと思ってな……」

 意味の分からず首を傾げた姫に歩み寄ると、ネウロは黙ってその白い頬を抓りあげました。

「ひはっ、いひゃいっ、いひゃっ……!」
「アカネ、どうやらコレは恥ずかしい程に文学への学が無いようだぞ。世に出す前に何とかしろ」

 袴と袿の裾を乱して必死に暴れる姫と、憮然としてその頬を抓り続けるネウロとを交互に見て、あかねは口元を袖で押さえて小さな咳を漏らした後に表情を引き締めて口を開いた。

「弥子様は、読書と詩歌は得意でございますよ? 何処の歌会に出しても恥ずかしくない程に」
「……フン」

 姫の頬から手を離し、再び弓を担ぎ直し踵を返すネウロを、赤い頬を押さえた姫は呆然と、袖で顔を覆ったあかねは笑いながら見送りました。
 日に何度か、ネウロはこうして、ふらりと屋敷の外に出かける事がありました。
 初めはなにをしているのかと、疑問に思った姫でしたが、そうして戻って来る時には必ず、菓子や着物などを必ず携えて来るのに慣れると、さほど疑問に思わなくなりました。
 きっと、何処かで行商人にでも会っているか、こうして姫を『拾った』のと同様に、敷地に落ちているそれらを拾って来ているものとばかり思っておりました。
 以前に貝合わせの鉢を一式抱えて帰って来た時などは「貴様の事を話したらな、やたらと帯と櫛とを渡したがったのだが、我が輩との平和的な話し合いに納得してそいつを手渡した」などと、驚く姫に自慢げに言うくらいでございました。
 なので姫はその時はまだ、ネウロが脅す誰かの正体を知らぬまま、その身を案じて僅かに同情さえも感じておりました。
 ネウロがふらりと出ている間は、あかねが側に付き、遊びや教養を教えてくれたので、姫はそれが別段、寂しいとも思いませんでした。
 それに、屋敷に戻ると、ネウロはその土産を携え、必ず、姫の居る房を訪れるのです
 ある時は庭から欄干を越えてズカズカと房に踏み込んでは、あかねに勉強を教えて貰う姫の邪魔をし、
またある時は、気づかれぬように何かに興じる姫の背後に回っては、頭や首根っこを掴んだり檜扇や弓で額を打ったりと他愛もないちょっかいを掛けるのです。

「ちょっ! 邪魔しないでってばっ、あかねちゃん、あれで怒ると怖いんだからっ!?」

 そう抗議する所を魚帯で締め上げられたり、無視を決め込み黄金色の垂髪を引っ張られるのも、もう日常となっておりました。
 ネウロがどんな身分で一体何をやっている人間なのか、姫は知りませんでしたし、別段聞こうとも思いませんでした。
 ネウロは最初こそ姫に対し、執拗な関心も質問も向けましたが、姫が頬を抓られようが叩こうが答えない事に関しては、それ以上の詮索を加えようとしませんでした。
 ですので、姫もネウロが話すまでは訊ねない事にしようと決めたのです。
 しかし、普段は狩衣や直衣でいる事の多いネウロが、わざわざ束帯に着替えて、あかねと連れだって出掛けた日が一度ありましたから、もしかすれば、武官や文官なのかも知れないと姫は思っておりました。

「あれ……そういえば、あの時のネウロの上衣って、明るい青色だったよね? そんな役職……あったっけ?」
「……貴様、前々から思っていたが、予想以上のうつけ者だな。その頭には雪花菜が詰まっているのではないのか? よし、確かめてやろう」
「ぐぎゃっ!?」

 筆を持ち、写本用の巻物を広げた机に頬杖を付きながらそう呟いた姫君は、音もなく忍び寄ったネウロに本日も頭を捕まれ、顔面から硯に叩きつけられました
 そうしてその日、ネウロが持ち帰った山吹の細長も、ネウロと筆を奪い合い、挙げ句、夥しい落書きに黒く汚れた顔でふて腐れる、姫の着替えとなったのでした。

適当な用語解説:

青はさて何でしょう。


date:不明



Text by 烏(karasu)