「不思議の国のアリス」パロディ、第三章


キャストのミスマッチと、ギャグ的なキャラ崩壊に注意!
 参考:集英社版『ふしぎの国のアリス』(北村太郎 訳)

かわいそうな小姓と会って……

「すっ……すみませぇ〜ん」
「……あ?」
「こっ、ここは誰の家なんですか?」
「……公爵夫人の家だよ」

金色の短髪、趣味の悪い柄をした緑のシャツを羽織った小姓(だと思うけど、それにしては態度が横柄だったの。と、後にアリスは語った)は、玄関前の階段に腰掛け、心底疲れたという面持ちで煙草をくゆらせていました。

「そうなんですか……ありがとうございます!」

そのテの人と余り係わり合いになりたくなかったアリスは、彼の横を足早に通り過ぎ、屋敷の中に駆け込もうとしましたが、すれ違おうとした瞬間に、ぐっと腕を掴まれました。

「な……! 何なんですか!?」
「……今、行かねぇ方がいいぞ」
「え……?」
「来てるんだよ……。あの…チェシャ猫の野郎がっ!」

あの忌々しい化け猫め……。
吐き捨てるようにそう呟き、小姓は自分の傍らに立つ、大理石の柱を殴りつけました。
ボコン、と鈍い音を立てて凹む柱。そこからバラバラと落ちた砂塵の音に、

「ぎゃっ!」

小さな悲鳴を上げ、思わず首を竦めたアリスはそうっと目を開け、恐る恐ると聞きました。

「あっ、あのー、あなたが、その猫っていうが気に入らないのはもしかして、
猫が婦人の愛人とか……だったりするからとかですか?」
「んな訳ねぇだろこのバカ女が!!」
「わっ!?」

再び響いた轟音に驚き、さらに身体を丸めたアリスの頭上から、小姓のがなり声が響きました。
「あいつはなぁっ!ただ婦人と趣味が合うだけでこの家に居るんだよ!!
でなきゃ俺が首根っこ掴んでつまみ出してや――」

その時、小姓の背後のドアが音も無く開き、中から皿が飛び出し――小姓の後頭部に思い切り当りました。
ガシャン、という甲高い音の直後、どさりと前のめりに倒れる小姓。余りに唐突な展開に、アリスの頭は上手くついていきません。
暫し呆然とその場に立ち尽くしてたアリスですが、背後で聞こえた――どうやら今の音に驚いて飛び立ったらしき鳥の羽音にハッとし、小姓に駆け寄りました。

「ちょっ、大丈夫ですか!?」
「…………ッ」

足元に倒れる小姓からは返事が無い。アリスは急いで傍らにしゃがみ込み、小姓の頭を抱え、自身の顔を近づけました。
「良かったぁー。息してる……」

アリスがほっと胸を撫で下ろしたのと同時、ギィーッという木の軋むような音がしました。
「えっ……!」
「うぐっ……」

驚いて、思わず小姓の頭を取り落としたアリスが音の方に視線を向けると、玄関のドアがさっきよりも大きく開いています。
まるで、アリスを中に迎え入れるかのように――――。

「……こんな所で道草せずに、さっさと中に入って来い。って事みたいね……」

アリスは小さく呟くと、立ち上がりってスカートの埃を払い落とし、ドアに向かい毅然と歩き出しました。
――小姓の屍を越えて。

「死んで、無ぇよ……」


今回のキャスト一覧:
 アリス:桂木弥子 婦人の小姓:吾代


 吾代のシャツが緑色なのは恐らく、原作での小姓が蛙だからだと……。


date:2006.12.02



Text by 烏(karasu)