「不思議の国のアリス」パロディ、第二章


キャストのミスマッチと、ギャグ的なキャラ崩壊に注意!
 参考:集英社版『ふしぎの国のアリス』(北村太郎 訳)

自信をなくした芋虫と……


ウサギの指す扉から外に出たアリスは、彼のいう「森」の、余りの広さに思わず絶句しました。
上下左右を見渡しても周囲には木しか無く、下草はアリスの腰辺りまで鬱蒼と茂り、まともな道どころか、太陽さえ碌に見えないという始末。
(実際、今、彼女が出てきたドアでさえ一部が蔦と草に覆われていたのです)
奥からはバサバサという羽音と、ギャァギャアと響く咆哮。

「……これじゃ、森じゃなくて密林だよ……」

肩を落とし、うんざりという口調で呟いたアリスの声さえも、森……もとい密林は吸い込んでいきました。

「……もぉっ、体中ぼろぼろだよっ!」

小さな身体で果敢にも森へと挑んだアリスは、草で体中擦り傷だらけになった頃、ようやく木々の切れ間を見つけ、小さな野原に出ました。

ぜいぜいと肩を怒らせ叫び、顔を上げたアリス。彼女が見た広場の中央には大きな茸が生えていました。そして、その上には大きな青虫が座っていたのです。
普通の人なら漏れなく回れ右をするか思考を手放す状況ですが、流石は我らのアリス、その位では驚きません。

「……よし、あの人…? に道を聞こう!」

息を整えそう呟くと、なんの躊躇も無く茸に歩み寄りました。

いざ近づくと青虫の乗っている茸は思いのほか大きくて、アリスは背伸びしなくては傘の上を覗けませんでした。
「あぁ、よく来たね……」

芋虫は悠長にそう言うと、見入っていたテレビ画面からアリスへと視線を向けました。

「まぁ、座りなさい」

アリスは芋虫の差し出した左手を取り、茸の傘に乗りました。

「今日は何の用かね?」

クッションのように柔らかいキノコの上で、アリスがどうにかバランスを取ったのを確認するやいなや、傍らに置いたコントローラーを再び手に取り、テレビに向き直り、アリスに背を向けた芋虫は言いました。

「あ……あの、公爵夫人の家までの道を、教えて頂けませんか?」

正座をし、両腕を突っ張って身体を支えたアリスは、芋虫の薄い頭に思わず視線を合わせながら、なるべく丁寧な口調を心掛けて言いました。

「………」
「? ……あのっ!」

ピコン、トゥーン…――

「あっ……」
「あぁっ!?」

いつまでも返事をしない芋虫についに焦れたアリスが声をかけた瞬間、画面の中のキャラクターはジャンプに失敗し、真っ逆さまに谷底に落ちてしまいました。

「………」
「え―っと……。ごめんなさいっ!!」
「……あぁ、いいよ。気にしないでおくれ……」

芋虫は虚空をみつめそう呟くように言うと、丸い顔を綻ばせて笑いました。
「ヒッ……!」

大人らしく落ち着いた笑顔。しかしそれに薄ら寒い物を感じたアリスは小さな悲鳴を上げ、額を押し付けんばかりに再び深々と頭を下げました。

「ごめんなさいごめんなさい……!」
「……じゃあ、私がこの面をクリアするまで静かにしていてくれないかい?」

青白い顔でこくこくと何度も頷くアリスに満足気に笑いかけ、芋虫は言いました。
「そうしたら、ちゃんと道を教えてあげるから……大丈夫、私は情報に関してのプロなんだから……」

最後の方は自身に言い聞かせるように呟くと、芋虫はゲームを再開しました。
(ハァ……)

アリスは、芋虫の子供のように澄んだ瞳の横顔をみつめ、ただ嘆息する事しかできませんでした。

*

―――― 一時間後……。

アリスは芋虫の先程の失敗が、あらかた自分のせいでは無い事に薄々気付き始めていました。

そのゲームをプレイする芋虫は、アリスの見ている間だけで約数十回、加速しすぎて雑魚敵に真横からぶつかり、取るべきアイテムを素通りし、取ったわ取ったで調子に乗って加速しすぎ、失速してそのまま谷底に……と、きわめてワンパターンな失敗ばかりを繰り返していました。
(あ―、何か謝って損したかも……)

芋虫の後ろ、キノコの上に肘をついて俯せて(時折そこら辺の傘を手でちぎり口へ運びながら)足をパタパタさせ、ゆるゆると動向を見守っていたアリスが欠伸混じりでそんな事を考えているうち、芋虫はとうとうボスの所にたどり着きました。が。

そのプレイの酷い事酷い事といったらありません。
あっという間に壁際に追い詰められて踏まれたり、大きくジャンプした敵にうろたえ右往左往した揚句、何を血迷ったか地面に映った影の下へ潜り込み(以下略)というような有様です。

そうしてみる間にコンティニュー回数は減り……残りあと二回となってしまっては、流石のアリスも高見の見物というわけにはいきません。

アリスはガバリと起き上がり、足音を忍ばせそろりと芋虫の隣に座りました。

「あのぉ……ちょっといいですか?」
「なんだね!」

怖ず怖ずと右手を上げたアリスに芋虫は焦れたように言いました。
「アイテムの一覧、見せて頂けますか? ……あ、ハイそれです。その中の――コレっ!」
「……これかね?」
「ハイ!これ使って敵の動き止めて下さい!! そしたら後はタイミングを見て……今っ!? 踏んづけて!!」
「こう?」
「そうそう! それを同じパターンで三回っ! はいっ、いい調子です」
「ふふふ……そうかね?」

――こうして、見るに見兼ねたアリスの的確な指示により、ゲームはあっさりクリア出来ました。

「やったぁっ!! おめでとうございます!」
「ありがとう、ありがとう! これでやっと、次のステージに進めるよ!!」

芋虫とアリスはハイタッチで喜びを分かち合いました。(その際、思わず抱き着きそうになったアリスをすんでの所で芋虫が止めました)

「あっ、そうだ! 私、公爵夫人の家に行かなきゃいけなかったんだった!?」

ハッと思い出し、素っ頓狂な声を上げたアリスに芋虫はどこからともなく一枚の紙切れを取り出して渡しました。
「そのとおりに行けば、夫人の家に着く筈だよ」
「本当ですか!?」
「私の情報は、信用第一だからね」

芋虫は顔を輝かせてにっこりと笑いました。その笑顔には、会ってすぐにアリスが感じたような嘘臭さは微塵もありませんでした。

「じゃあ、お世話になりました!」
「うん、気が向いたらまた攻略の仕方を教えておくれ!」

キノコから下りたアリスは振り返り、未だ金色に輝きを発する芋虫に一礼してそう言うと、踵を返し、再び公爵夫人の家を目指して歩きだしました。


今回のキャスト一覧:
 アリス:桂木弥子 芋虫:望月さん


ちょうど、彼が2面のボスに手こずってる頃に書いた話。
副社長より使えなくて、自信を無くしていないかなぁ―という的はずれな想像から。


date:2006.10.11〜23



Text by 烏(karasu)