桂木姫の話、十の巻


小説コン、写メコンに出した物を膨らまし詐欺。
ある有名童話をベースの平安パラレル(凄い勢いで脱線ぎみ)、出来たら上げる感じで行きます。
言葉の分からない所に辞書を引くのが億劫で今の言葉を使ってたり、適当に濁してたりする部分があるのはご愛敬。
あくまでパラレルなので信じちゃいけません。古典や歴史で書いたらマイナス確実です。

once upon a time.


「――え……」

 しかし、その果汁と果肉が舌の上に落ちる前に。ズドンと、重い衝撃が骨に直接伝わり、姫はその場に膝を付き、膝を折って座り込みました。

「なん……で……」

 抱えた木の実ごと胸を押さえて呆然と目を見開き、そう姫は荒い息でひゅうと喉を鳴らしながらやっとそう呟きました。
 そうして腹を押さえる姫の細い指の間からは地と平行に細い棒が平行に伸びておりました。

 腹から矢を生やした姫は傍らで呆然と見下ろすサイを虚ろな目で見上げておりました。

「あんた……撃ったの……?」
「ぅ……ぁ……」

 自分に何が起きたのかをサイの言葉で悟ったのでしょうか。
 、姫は困惑から段々と苦痛に顔を歪め、最後にはがくりと力無く首を落とし、柱に背を預けたまま、がくりと俯きました。

「あぁ。手間が省けて良かったろう?」

 けれどもサイが驚いたのは、姫が矢によって絶命したことよりも、その矢を射った当人が、嘆くでもなく憤るでもなく、ただ酷薄な笑みを掃いて弓を納めたことでした。

「そりゃ……楽はらくだけど、後味悪いじゃん」

 肩を竦めてそう言い、弓を背に担ぎ、こちらへ歩み寄るネウロから目を逸らしすと、サイの足下で姫が短い咳を漏らしました。

「ゲホッ……」

 けれどもサイが、床に落とされた虚ろな目からこぼれる涙を確認出来たのはほんの一時でした。

「そういえば貴様、コレを撃ったのは何故かと聞いたな
「ツッ……」

 いつのまにか姫の間近に近づいたネウロが、その御髪を掴み、釣り殿の床に、サイに背を向けさせる体制で引き倒したのです。

「理由は簡単だ……コレが、独りよがりに我が輩から逃げようとしたからだ」

 頬を強かに打ち、猫の子のように丸まった姫のお顔を覆い被さるようにしてのぞき込みながらそう言うネウロの声には、どんな情も見て取れません。

「ふぅん……逃げられるくらいなら殺しちゃえってこと?」
「まぁ、そういうことだな……」

 そう言って、姫の長い御髪を掴んだまま顔を上げたネウロはやはり、傾いて釣り殿の間から刺す日に僅かに目を眇めた以外、全くの無表情でした。

「……っ!」

 にも関わらず、横倒れになった姫に覆い被さるようにして見上げるその目と視線があった瞬間、サイはぞくりとした寒気を感じました。

「……じゃっ、俺は帰るよっ! 一応、目的は果たした訳だし」

 寒気と裏腹に、小袖の背中でじとっと沸いた汗を振り払うようにばたばたと水干の袖を振りながらサイは背を向けてその場を去ろうとしました。

「あぁ、待て」
「ん、何さ?」

 呼び止められて振り返ると床に膝を突き、姫の頭を抱き寄せたネウロが石帯から抜いた太刀を、その後ろ頭に振り下ろしました。

「証拠がなくては、貴様の依頼主であるコレの継母も困るだろう。今までの品代として持って行け」

 言葉と共に振り下ろされた太刀が、ぱつんと音を立て切り取ったのは、姫の長い日向色の御髪でした。

「髪は女の命と世に言う。これで、ヤコが死んだ事は証明出来るし、これならば棺に詰めて荼毘にもふせよう」
「あー、忘れてたっ! それ凄い助かるっ!」

 サイは、引き返すと、こちらを見ぬままぐいと差し出された御髪を受け取り、懐紙に包んで空になった籠に放り込みました。

「本当はコレに詰めて持って帰る約束だったんだけどさー。こっちのが軽くていいや」

 サイがそう笑いながら手を動かす間、ネウロはずっと、歌を歌っておりました。
 自分の腹側に顔を向けさせた姫の頭を膝の上に乗せ、日に当たった事のない生白い項の半分までの長さに切り詰めた御髪を手櫛で梳きながら、その顔は少しほっとしたように、嬉しそうに笑っておりました。
 サイは宮廷行事や節会に興味も関心もなく、呼ばれる事もないのでわかりませんが、ネウロの歌は、そうした所で歌われるものとは違うようでした。

「ねぇ、それ、なんて曲?」

 懐紙で包み結った御髪が乱れないのを確認し籠に落としながら、好奇心から、サイはそう聞いてみました。

「さぁ?」

 そう答えたネウロは、姫の頭に視線を落として俯いたまま、抱えた体を落とさないよう器用に肩を竦めてそう答えました。

「我が輩もよくは知らないが……聞けば、乳母が子どもをあやす時に歌うものらしい」
「ふぅん……」

 言われてみれば、音律は一応あるものの、浪々と声を張ることもせず、ボソボソと歌いながら髪を梳く様は、確かに雛遊びのようにも見えます。
 そうしてそれは、見る者が見たのなら、相手にしか聞こえない絞った声の、縟の睦事のようにも見えました。

適当な用語解説:



date:不明



Text by 烏(karasu)