楽しい時間を終わらせるのは大抵、どちらかのケータイが鳴る時で。
そして今日は、桂木のが先に鳴った。
「行ってきます!」
こちらの気を知ってか知らずか、何の感慨もなくかなり無邪気に言うモンだから、
「ん、行ってらっしゃい」
見上げる視線との距離を僅かに詰めて、こっちも無邪気に口づけてやった。
前髪をそっと除け、滑らかな額にやんわりと唇を押し当て、わざとゆっくりと顔を上げる。
そうしたら、別に口にした訳でもないのに、真っ赤になってポコポコ叩いてきて。
「匪口さんの馬鹿っ!!」
予測不可能な言動に、予想通りの反応が重なる。
全く、この生き物は何でこんなに無防備で可愛いんだろう。
色々反則だろう……普通に。
謝る声に顔を上げられないままでその腕から抜け、背を向けて駆け出す。
いくらか勢いで走ったとこで、気になって足を止め、そっと振り返ってみる。
走り出す前よりちょっと遠くなった、さっきと同じ場所、落ち込んだように背を丸め、溜息をついているのが目に入る。
年齢の割に幼く途方に暮れたような、どうやら私の言葉に本気で落ち込んでいるらしい姿が、何だか無性に可愛く思えてしまったので、
「……じゃあね匪口さんっ! また明日っ!!」
右手を大きく振って、出来る限りの大声で、そう叫んでみた。
途端、勢いよく顔を上げ、尻尾でも振り出しそうな勢いの満面の笑みなんて浮かべて、大きく手を振り替えして来るんだから……普通に反則だと思う。
「本当に可愛いのはお前らだ馬鹿!」
……と、思わずツッコミたくなるくらい、甘々な話運びになっていれば良いなぁ、と。