額の上に友情のキス


可愛くて、仕方ない。


side:匪口:

楽しい時間を終わらせるのは大抵、どちらかのケータイが鳴る時で。
そして今日は、桂木のが先に鳴った。

「行ってきます!」

こちらの気を知ってか知らずか、何の感慨もなくかなり無邪気に言うモンだから、

「ん、行ってらっしゃい」

見上げる視線との距離を僅かに詰めて、こっちも無邪気に口づけてやった。
前髪をそっと除け、滑らかな額にやんわりと唇を押し当て、わざとゆっくりと顔を上げる。

そうしたら、別に口にした訳でもないのに、真っ赤になってポコポコ叩いてきて。

「匪口さんの馬鹿っ!!」

予測不可能な言動に、予想通りの反応が重なる。

全く、この生き物は何でこんなに無防備で可愛いんだろう。

色々反則だろう……普通に。



side:弥子


「ごめん、ごめんってば、桂木っ!」
「匪口さんなんて、もう知らないっ!!」

謝る声に顔を上げられないままでその腕から抜け、背を向けて駆け出す。

いくらか勢いで走ったとこで、気になって足を止め、そっと振り返ってみる。
走り出す前よりちょっと遠くなった、さっきと同じ場所、落ち込んだように背を丸め、溜息をついているのが目に入る。
年齢の割に幼く途方に暮れたような、どうやら私の言葉に本気で落ち込んでいるらしい姿が、何だか無性に可愛く思えてしまったので、

「……じゃあね匪口さんっ! また明日っ!!」

右手を大きく振って、出来る限りの大声で、そう叫んでみた。
途端、勢いよく顔を上げ、尻尾でも振り出しそうな勢いの満面の笑みなんて浮かべて、大きく手を振り替えして来るんだから……普通に反則だと思う。


「本当に可愛いのはお前らだ馬鹿!」
……と、思わずツッコミたくなるくらい、甘々な話運びになっていれば良いなぁ、と。


date:2007.08.02



Text by 烏(karasu)