「本当に、私に?」
弥子ちゃんは信じられないという顔で、大きな瞳を何度も瞬かせて俺と、俺が渡した箱を見比べた。
「ん、そう。弥子ちゃんもうすぐ誕生日でしょ?」
俺はいつもより丁寧に、その真意が彼女に染み入るようにと言葉を選んで答えた。
「あのっ、開けてみても…いいですか?」
「ん、いいよ……」
カサカサと包装紙を綺麗に剥がし箱を明け、細い指先が中の物を摘み上げて陽光に透かす。
「わぁ―指輪だぁ―っ!!」
色素の淡い髪の下で揺れる丸い茶色の瞳が小さな子どものようにうっとりと指輪についた水色の石を見つめる。
誕生石なんて、柄にも無い物を調べた価値は――あるだろうか?
「どう?変じゃ無い?」
「全然変じゃ無いです!!むしろ気に入りすぎてどうしようってくらい!!」
彼女は笑い、そう言うと、指輪を持った両手をギュウと、自分の胸元に押し付けた。
無駄な心配は杞憂に終わる。彼女は嘘の付けない娘だから、恐らく本気で喜んでくれているんだろう。
つまりは――石垣に絡まれたり、笛吹に見咎められ、相手をしつこく尋ねられたりといった――徒労に見合う
どころか、それ以上の対価を得られたわけで。
「そっか。そりゃ良かった」
「ありがとう笹塚さんっ!!大好きっ!!」
――ダイスキ
歌うように呟かれたその一言は、春に降る雨のように俺の心に柔らかく染み入る。
その一言が持つ魔力は大きい。特に女の子特有の柔らかい声で言われると。
『マジありがとうアニキ!!大好きっ!!』
暖まった心に、陽炎の様に記憶が湧く。