「不思議の国のアリス」パロディ、第五章――その2


キャストのミスマッチと、ギャグ的なキャラ崩壊に注意!
 参考:集英社版『ふしぎの国のアリス』(北村太郎 訳)

閑話:不思議なアリス


「……ったく、二度とあんなお茶会はご免だわ! 言いがかりは付けられるし、名前は何度も間違えられるし――って、あれっ?」

再び一人で暗い森へと入ったアリスは、先ほどまでの狂乱を思い出すうちに、ふと感じた疑問に足を止め、小さく首を捻りました。
「私――ただ名前を間違えられただけなのに、あの時、なんであんなに焦ったんだろう?」

自分と違う名前を呼ばれて動揺する――そんな不思議なアリスの行動を、帽子屋もねむりねずみも、何故いぶかしがらなかったのでしょうか?
こうして思い返すアリス自身も、自分の奇っ怪な行動にくびを捻るばかりだというのに。

そもそも、名前の間違いだけならば、そもそも最初にアリスをこちら側へと引き込んだ白い兎だってしています。
「メアリ・アン、メアリ・アン!」と、折角言い直してあげてもしつこく何度も何度も呼ばれた時のアリスは呆れこそしましたが、果たしてあんなにまでも焦っていたでしょうか?

「あの人……、何て言って私を呼んだっけ?」

アリスは、ねずみの間違えて呼んだ名前を反芻し、声に出そうと口を開いてみましたが、つい数分前のことの筈なのに、その名前を全く思い出せませんでした。

何でもいから手がかりになる音を絞り出そうと喉に手を添えてみても、漏れるのはひぅひぅという、
木々の間を抜ける風のように頼りない呼吸ばかりで、そのうち、開けたままの口の中が乾いて激しく咳き込んでしまいました。

思わずその場に蹲ったアリスは、涙でブレた視界の中、ぞくりと背筋を伝った悪寒に、自身の体を細い腕で抱きしめました。
まるで、大切な何かを無くしてしまったような心地です。

「――まぁ、いいか。分からない事をいつまでも考えたって仕方ないもんね」

そう自分を勇気づけ、アリスは再び道を進みました。


今回のキャスト一覧:
 アリス:桂木弥子
一つ前の章のフォロー編で有り、続けやすいように入れた伏線でもあります。
 


date:2008.02.15



Text by 烏(karasu)