CLAP LOG 01


01〜10まで。日付は分かるものにだけ記入
(old↑ new↓)
  1. 身体測定 – あかねで弥子な馬鹿話
  2. 逃避行 – 少女は一人北へ…(しかしすぐ捕まる)
  3. 恐怖 – 弥子一人語り
  4. 「深い愛」に捧ぐ – 某作家の文体パロ(「」内英語読みがヒント)
  5. 魔人ヤコと助手ネウロ – 何故か幼女っぽく…。
  6. こえさえとどかない – 桜井*美的ヒロインなヤコ。分かる人にだけ伝わればそれで。
  7. 着せ替え弥子ちゃん – 続、桜*亜美的ヒロインなヤコ。分(ry
  8. 「浴室」の没オチ – お題「浴室」のリサイクル品
  9. 日本語の時間 – 宮崎作品を観ながら思いつく…
  10. 桜木の下、光溶け滲む – イメージ曲:「YOU&I」「佳代」(共にGOING STEADY)


身体測定

<ハイっ、息を吸って>
液晶画面に打ち込まれたその文字列に、弥子は素直に従う。
静かな部屋に小さく呼吸音が響き、
<そのまま止めて>
そこに小気味よくタイプ音が重なる。
呼吸とタイプの音が止まるのと同時に、文字を打っていたのとは別の毛束が弥子の胸に絡み付く。
そのまま軽く締め付けて、一拍置いてシュルリと解けた。
「ねっ……どうだった?」
さつきから無言だった弥子が、緊張の面持ちで言葉を紡ぐと、
あかねはう―ん、と首を傾げるような仕種をしながら、
さっきと違い慎重に文字を打ち込んで行く。
恐る恐る画面を覗き込んだ弥子から、歓声が上がる。
「やった!!2センチ増えたっ!!」
<良かったね!!>
そう打ち込んだ後に、弥子の頭を撫でる。
「うんっ!!」
素直な返事を返し、弥子は晴れやかに笑った。

date:2006.04


逃避行

「じゃ、行って来るね」
「ん、頑張っておいで」
「うん……」
「あ、そうそう弥子」
「なぁに?」
「あの恰好いい助手さんによろしくね」
「……解った」

笑う母に手を振り、玄関のドアを閉めてから、小さく溜息を付く。
安堵で脚から力が抜け、ドアに寄り掛かかったままでズルズルと玄関にしゃがみ込んだ。
「ごめんね、お母さん。本当は、事件なんて、無いんだ……」
ネウロに会いにだって行かない。
ただね、すっごく遠くへ行きたかったんだ。
私の悪夢も、あいつの嘲笑も、全部届かないくらい遠い所へ。

「……もう、行こうかな」

もう一度溜息を付いてから、寒さで震える両膝に手を当てて、ゆっくり立ち上がる。
衣類の詰まった重い鞄と、罪悪感で灰色に沈む心を引き連れて、
名残雪の降る中、駅へと続く真っ白な道を、私はこれから歩いていく。
全てから逃げる為に、たった一人で、ただ真っ直ぐに。



恐怖

恐怖と言う物の性質物を、私はよく知っている。 それは心臓から全身に回り、頭の上から爪の先までを、
時に呼吸も出来ない程ぎちぎちに縛り上げ、時に呼吸さえ忘れる程の緊張に追い込む。

前者は人間よりも人間らしい性格をした、冷たく温かな魔人に出会った時、
後者は人間という形を忘れ、高い体温と、それに反比例する心を持った怪物に会った時に感じた。

私は恐怖という物をよく知っている。
前者にも後者にも共通する事は、私に逃げ場は無いという事。
前者の存在には段々と慣れて来た。後者の存在は、
忘れる方法も、受け入れる術も解らぬまま、未だ私の心に燻っている。



「深い愛」に捧ぐ

細い身体を自室のベットに横たえた弥子は、何か物思いに耽っているようだ。
ぼんやり天井を見詰めるその大きな瞳の奥で静かに燃えている光りは、
きっと今ここに居ない魔人に向けられているのだろう。
強く思っても、絶対に伝わらない事を、彼女自身も多分良く知っている。
「うん、ここでこうしてたって……何も伝わらないよね……」
そう呟き、ゆっくり身体を起こした弥子は、どうやら何かしらの決心が着いたようだ。
立ち上がり、暗くなりかけた窓の外を一度見ると、
逸る気持ちを押さえながら、部屋の外へと飛び出した。



魔人ヤコと助手ネウロ

「あぁ、貴様に紹介せねばな──」
長い脚を持て余し、ソファに座る男は吾代に向かいそう尊大に言った後、
傍らにうずくまる小さな物をゆり起こした。
「──ヤコだ」
男に名前を呼ばれたその小さな生き物は、ゆっくりと身体を起こす。
その拍子に、肩に掛けられていた青い上着がずり落ちた。
『ヤコ』と呼ばれた少女はぼんやり吾代を見つめ、ふっくらとした小さな手で、
眠気に細めた目をゴシゴシとこする。

「こらこら先生、そんなに擦ったら眼が赤くなりますよ」
男は吾代に向けたのとはうって変わり、優しい声でヤコを嗜め、細い手首を掴む。
「ネ…ロ?」
ヤコは茶色の瞳を見開き、舌たるく男の名前を呟き、コトンと音がしそうな風に首を傾げた。
「ほら、先生っ、新しい奴れ……社員に挨拶は?」
「ちょっと待てテメェ!!今確実に奴隷って……」
荒げた吾代の声に、ヤコはビクリと身を震わす。その大きな瞳にじわりと涙が浮かぶ。
ネウロはその頭を掴み、自分の胸に押し付け、トントンと、軽くヤコの背中を叩く。
それで安心し、震える小さな身体から力が抜けていくのが吾代からも見て取れた。
「余り乱暴しないで下さい……先生はとても恐がりなんです」
穏やかな、それでいて凛と通る低い声でそう言う男の翡翠色をした目は、全く笑って居なかった。
この、人間で有る助手の方が、その腕の中で震える人外の少女より、よっぽど化け物じみているように思える。
今後の事を想像し、吾代はげんなりと溜息を吐いた。



こえさえとどかない

ギリシア神話に出てくる青年、ナルキッソスは、
湖に映った自分自身の姿に叶わぬ恋をしたという。
永遠に伝わらない恋心を抱いて死んで行ったという美少年。彼はきっと、私に似ている。
私は今、私に覆いかぶさる化け物の、
深い森のように澄んだダークグリーンの瞳に映る私自身に欲情している。

今こうしてセックスをしている男の、
彫刻を思わせる端正な顔、私の胸に触れる丁寧な指先や、
時折漏れる低い声では決して無くて。



着せ替え弥子ちゃん

私は食べ物の中でもケーキが一番好きだ。
極彩色に溢れたそれを口にする度、違う自分になれる気がするから。
柔らかなクリームのショートケーキを食べた時は
砂糖菓子みたいに愛らしく、守ってあげたくなるような女の子。
ブランデーの入ったチョコケーキを食べた時は
どんな男も手玉に取る、セクシーな女の子という風に。
そして、今日は……。

「ねぇっ、ネウロ」
お砂糖のように甘い声を出して、愛しい人の背中に抱き着く。
椅子に座る彼からは、「なんだ?」と、いつも以上につれない返事。
でもいいの。気にしない。だって、
「ねぇ、キスしてよ」
今日私が食べたのは、とても特別なケーキ。一年に一回、私の為だけに作られる。

その高貴な味に見合うように、今日の私は、女王様みたく振る舞うの。

date:2006.03.15


「浴室」の没オチ

痛い、痛い…。
言葉が、囁かれた耳が、他人より丈夫に出来ている筈の心臓が。
「凄く、痛いよ…ネウロっ…」
風呂の淵に顎を乗せ、アヒルの鼻先を小さくつつく。
アヒルは憎たらしい笑みを浮かべたまま、弥子の心は痛いまま……。
こうして今日も、一日は終わろうとしている。



日本語の時間

「このっ…ロリペド野郎っ!!」
「ほう、自分の体形の難を自分で認めるのか…」
「う"っ……」
「少しは成長が伺えて、僕としても嬉しい限りです」
「色欲馬鹿魔人!!」
「……日本語さえ正しく使えぬ虫に、言われたくは無いな」
「はぁっ!?使えるよ日本語くらいっ!!」
「では聞くが、貴様はその言葉を、我が輩に正しく説明出来るのか?」
「だ、大体のニュアンスなら多分……」



桜木の下、光溶け滲む

少し行った先で振り返り、先程から外灯に透ける桜の花弁を見上げたままで、
その場を一向に動こうとしないヤコを呼ぶ。
「……ヤコ」
予想通り、返事は無い。

「ヤコ」

桜など、いつでも見に来る事が出来るだろう?
我が輩腹がへったのだ。
どれを込めても、睫毛一本さえも動かさず、揺れる桜を見上げつづける。
「……ヤコ」

我が輩の呼び掛けを無視するとは、貴様にしては良い度胸だな。
それは、そこまでする価値が有る物なのか?
どうなのだ、ヤコよ。

道を戻り、ヤコの隣に並びそれを見上げてみた。
……やはり、我が輩には良く解らぬ。
「ヤ−−」
少し苛立ちを含め、もう一度呼ぼうとした時、ヤコが、やっとこちらを向く。
「アンタもこういうの綺麗って思ったりするの?」
我が輩を見上げ、首を傾げる。その白い頬とブラウスに、
小さく揺れた桜の花影が、歪な斑を描く。
「……別に」
「そう……」
返事の後に後に苦笑し、また桜を見上げる。目を細め、愛しそうに。

そこで気付いた。我が輩はヤコを桜に取られたくなかったのだと。
同時に自嘲がこみ上げる。全く何と馬鹿らしい、と。
「ヤコ」
「ん?……っ!!」

抱きしめた身体は柔らかく、重ねた唇は温かい。
それを少し堪能した後に、ぼんやり我が輩を見上げるヤコの桜の花弁と同じ色に染まった頬を拳で撫でる。
「なっ…な!!」
今更、その顔に広がる動揺が面白くて笑う。
そのまま――春の気温にほてった頬を抓り上げた。
「痛っ!!」
「…いつまで間抜け面をしてる。行くぞ」
「え…ちょっ、と!!」

頬から手を離し、また道を行く。背中から小さく聞こえる足音が心地良い。
そう、嫉妬等は馬鹿らしい。
取られたのならばこうして、奪い返せばいいだけではないか。





Text by 烏(karasu)