When I was…前日碑


本編に盛り込めなかった弥子のメール。結構最後の方。


 今更だけど、私たちの間に何ヶ月の隙間が出来たか分からなくなっちゃったね。
 だからなに、ってこともないんだけどさ、昨日来たメールを見たら、ついしみじみしちゃって。
 一昨日、卒業式の前日に来たのが、三年に上がる春休みにヨーロッパの方に解決に行った事件への言及だったから、大体一年かな。
 そ、昨日卒業式だったの。次にネウロのとこに届くメールには、多分、卒業出来るか不安とか書いてると思う。
 大丈夫、卒業できたよ!
 しかも、卒業式の二日前までまた外で仕事して、そのついでに電車で国境越えてブラブラしてきた。
 覚えてる? 身ぐるみ剥がされた私の面倒見て賄いを食べさせてくれた飲み屋の強盗を説得して追い返したこと。
 あんな小さなことから始まって、もうこんなにも遠くに来たよ。
 今は、正式な依頼だけ数えても月に一回は依頼がやってくる。
 あかねちゃんは秘書として本当に優秀でさ、ちょっと隣の国に行ってみたいとかそういことを漏らすと、すぐに『本体』がルートやチケットの手配をしてくれるの。
 あ、でも大丈夫! 仕事のことは殆ど吾代さんが調節してくれてるかな。
 あかねちゃんがネウロの秘書で、ネウロの命令で私のお目付け役、吾代さんが私の秘書、って感じなのかな。
 しかもこの三年のうちに私が何も考えないで作った友達から辿って仕事のルートまで開拓してくれちゃってさ。
 今では国内より、国外の仕事を頼まれることが多いの。
 世間はどこかの誰かさんより優しくてね、努力すればするほど認めてくれるの。
 まぁ……実力主義って、失敗出来ないデメリットもあるけど、それを恐れてやらないのは、失敗した時の為に常に手を尽くしてくれてる人たちに失礼かなって。
 私はまだまだひよっこだから、沢山失敗して、沢山の人に尻拭いさせてあんたのことも働かせてやるんだから覚悟してよね!
 まぁそんな訳で、私、海外の主要都市なんかだと顔パスだったり、会社からの電話一つで犯人とお話させてもらったりしてるよ。
 このメールがどのタイミングであんたに届いているか分からないけど、もう届いてるかな、私の活躍の数々。
 実際は、まだまだ荒削りで輝いてはいないし、国内では、笛吹さんの手前お行儀良くしてるけどね。
 でも、おかげで、英語とスペイン語くらいなら結構喋れるようになったよ。
 韓国語とフランス語は発音がまだまだ怪しいみたいだけど……でも、言いたいことは伝えようとすればどうとでも伝わるよね。
 あかねちゃんと、ちょっと合体しただけで意志疎通が出来るようになったみたいに。
 あんたと、こんなメールなんてあやふやな物で、沢山の言葉を交わせたように。
 私とあんたがメールだけで、知らない世界の色々な人に何かを残すことが出来たように。
 凄いねネウロ、人間は言葉だけで何でも出来る。それに感情や理解が加わったらもう無敵だね!
 だから、やっぱり伝えようと思うから伝わるからじゃなくて、言葉もちゃんと勉強していこうと思う。
 それでね、それで――今度はあんたの言うことを、理解出来ないなんて言わないよ。それに、あんたが分からないって言ったからって、伝えることを諦めない。
 同じ言葉を喋れなくても、考え方が違っても、私が何を考えてるのかあんたに伝えようとするし、あんたが何を考えているか私は何としても知ろうとするから。
 それが辛くても、泣いたりなんてしないよ。

 ねぇネウロ、これだけは覚えていて。
 もしも、丸々一年違って同じ季節に居る私達の時間が、 また違う季節に傾いてしまったとしても。
 そのまま、惑星と衛星みたいに、何回も、何回もすれ違い続けてしまったとしても。
 どころか、互いのメールがもう届かなくなったりしても。
 コレ言うとあんた怒るけどさ……生きている私と再会できなかったとしても。
 お願い。それでも、この携帯だけはずっと持っていて。
通話料だって何だって、何年も何十年も払い続けられるくらい立派な探偵になるからさ。
 電話の向こうで何があっても、あんたを決して一人にはしないから。

 あ、吾代さんが呼んでるからもうそろそろ行くね。今回は国の依頼でスペインに行くんだ。
 今頼まれてる仕事は個人の交渉の依頼だけど、最近情勢が安定してないって聞くから次の仕事も立て込むかも。
 次のメールは仕事が終わって空港についたらすぐ書くね。
 じゃあね、またね。ネウロ。
時期不明。



Text by 烏(karasu)