高い位置の窓から射す月明かりは彼女の、普段から無機物を思わせるように滑らかで白い肌を、更に造りものめいた質感に見せている。
青白い陶器で出来た、ソレしか知らない、出来ないように作られた機構を持ったからくり人形のように、同じテンポで無表情に、何度も振り下ろされる両手。
その度に、その、しなやかで波のように白い指に握られているナイフは血の飛沫の糸を引きながら月光を受けて川魚の腹のように煌めき、
それら一連の、水が高いところからゆるやかに流れるかのように自然な動作に彼が見惚れる一刹那に再び、彼の腹部にずぶりと沈む。
長くも短くも感じられる一回の「ずぶり」が何度も積み重なって、部屋にはずぶずぶぐちゃぐちゃと、肉と血を掻き交ぜる鈍い音が響き続けている。
彼女に馬乗りになられた腰、裾の乱れた長いスカートから露になって、床へ落ちるすらりと柔らかな脚が寒さとは違った振動に小刻み震えていることが肉の薄い自身の身体の、大腿に挟まれた骨盤を通して伝わって来る。
いつもきっちりとした上着で覆われている二の腕や喉元も今は白さを露出し、その上、彼から溢れた返り血に染まっている。
いつも均等に分けられ綺麗に結われている紫がかった黒髪も今は扇のように乱れ、彼女が俯く度に彼の周囲に落ちていく。
彼のサポートの一環も含めてこうした慣れている彼女とはいえ、流石にナイフ一本で男を解体するというのは辛いのか、薄い唇は普段の呼吸よりも僅かに早いピッチで不随意に喘ぐ。
仰向けになり、両手を広げてされるがまま。瞬き一つせず、いよいよ肺がグズグズになった事によって遂には呼吸までやめて完全な死体を演じる自分を、
彼女はそのガラスのように冷たい目でどのように捕らえ、また、何故に無駄だと分かっていて何度もナイフを突き立てるのか。その真意は何だろうか。
適していない獲物と非力な女の細腕に手際悪く解体され行く死体として、それを考える彼の内側には、ただ歓喜だけが満ちている。
自身に何かが向けられていることへの、冷静な彼女がここまで乱れている理由が自分に有り、そうさせているのが自分だという事の、本能に即しすぎ理由の分からない程の。
――歓喜。
えぐられる胸に、掻き交ぜられる臓物に、元々の熱量とも違う、刃物との摩擦で生まれたのでもない熱がじんわりと宿って行く。
内側の熱に押し上げられて、役を忘れて思わず戦くように震えさせてしまう、血の気が引いた薄い唇。
(ア、イ――)
その唇が言葉の形を知らずに作っていたことにびくりと震えて動きを止めた彼女の様子で気付いた時には、死体の振りさえ投げだして、その表情のない頬に蝋のように血の気のなくなった手を伸ばしていた。
(ね、――もっと、やって?)
呆然とする彼女の手から滑った刃物が彼の中にざっくりと落ち、中の肉を削がれてむき出しになった骨の一部にでも刺さったのか、垂直に固定される。
「……ッ!」
驚いた様子で目を見開き、彼女の掴んだナイフの柄が返り血に滑り、更に深く刺さる。
――それでも彼はやはり幸せだったので、苦しむどころか笑みの形さえ作ってみせ、ゆっくりと目を閉じた。
以前某所で、「ヤンデレのサイアイはこうなると思う」と呟いた妄想を自分で形にしてみた。
エロくなったら落としに行こうと思ってましたが、エグくなったのでこちらに。
拍手版よりは少しばかしエログロ度をUPさしたつもり。