ヒグチさんお誕生日
pixvから。墓参りするヒグチ。
※夢小説風味。
あーやっぱおかしーかな? 誕生日に墓参り。
まーそーだろね……どーでもいいけど。えっと……線香上げて? 手を合わせて、南無阿弥陀仏…あ、要らないコレ? マジで? マジで。
え? あぁ、うん。理由? ……はぁ? んな訳ないじゃん。
いやさ、両親に大きくなった自分を見せるとか、二人のおかげで何たらかんたらとか、そーゆんじゃないんだわ。
どっちかってーと、ここに立って自分が何か感じる事に安心するってか。うんにゃ、儀式ってほどきれーなモンじゃねぇよ。
寧ろ汚い。生臭い。ってかダサくて泥臭い。
いやね、最初はさ、もう、ぼーぜんとするしか無いっていうかでさぁ、何も感じなかったんだわ。
墓が出来て直ぐはほんのガキだったから、「あぁ、墓があるな。そんで、この下には両親が眠ってるのな。へぇー」くらいの感じだったし。
学校から帰って親の死体見つけてから保護されるまでの記憶曖昧だし、実感沸かないし? みたいな。
その後はなーんか……年一、命日に仕方なく行ったり、たまに行かなかったりだったし。わりかし最近まで。
そ、ほんとその通りだわ。ほんと、はくじょーな事に。殆ど忘れてた。
実を言うとさ……どうやら俺が殺したっぽい、ってことも最近まで完全に忘れてた。っていうか、気づかない振りしてたくらいで。
……たまに、浅く眠った時とか、デスクで数秒意識無くした時の夢なんかであの時の事思い出してさ、ひょっとして……って思うこたぁ、実は結構あったんだけどさぁ。
俺が殺した? いやいや違う違う! って、そーゆー時には無理にでも笑って否定してたんだけどさぁ……。
結局、無意識っての? そこでは本当は、そう思ってたんだよなぁきっと。
HALに洗脳されて、桂木に指摘されてで、やっと分かったけど。
この墓の下の、飯の時も殆どパソコンに向かってて、画面越しにしか顔を見た記憶の無い両親を俺が、俺の手でエンターを押して殺したんだって。
あいつらをこの石の下に押し込んだのは、幼い俺と、その無邪気な願いなんだって。
って……あーやだやだ、何でこんな辛気くさい話しなきゃいけねーんだよ! 折角の誕生日なのにさっ!
この後さ、夜ね、飲み会あんだよ。迷惑な事にさっき言った桂木が、ウチのツンデレ上司と結託してさー。
「絶対逃げるな」って上司直々の命令だよ。今時ないでしょ? 上司の酒の席での付き合い強要なんて。
主役だから絶対来いってさぁ、逃げらんねーの、俺。
やー、老若男女全部にモテるいい男ってのは辛いよな。なーんて……あ、ヒいた?
んな訳で、夕方までにさっさと帰って着替えねーと……線香臭いよな。頭にも臭い移ったから、風呂らないと。
洒落になんないじゃん、誕生日会の主役が線香臭いとか……それにかっこわりーし。
えっ、前は何も思い浮かばなかったのに、今は何が思うのかって?
あるよ、そりゃもう一言で語り尽くせないくらい色々と。
てかさ、俺も二十代だもんさ。ガキのままじゃいらんないよ。年々複雑になってく。
え、たとえば? あぁうん、憎んでるよ。親を。恨んでる、って言ったっていい。
何で俺を見てくれなかったんだとか、何であいつらの世界が――ネトゲのサーバーが壊れた時、俺の事を思い出してくれたのかとか。
あ、こーも思ったや。……あの世界が終わった時、息子の俺も画面の向こうで死んだのかなとかさぁ。
だったら、ネトゲの中の俺もあの日に死んだんだろーな。自分で消したったんだもん。間違いなく自殺だよね。
あ、殺人なんだから親と一緒の無理心中か。
……なぁ、あいつら、あそこに俺が居たら、俺も連れてこうとしたかな? 世界の向こうに。
まぁ、それは絶対にねーんだけどね。おかしーね。無理心中なのに、同じ部屋の中に居たら成立しなかっただなんてさ。
え、なに。何で、そんな話しながら顔が全然怒ってないんだって?
あ、そう? 俺としちゃ仕事以外じゃぜってーしないマジな顔のつもりなんだけど。
寧ろ笑ってる? あ、そりゃそうかも。
だって俺、変な話だけどさ、少しだけうれしーの。両親への恨み辛みや「憎い」って気持ち、思い出せた事。
何でっていうとさ……ほら、さっき言った桂木っての。そうそうあの有名な探偵の。あいつが言ってたんだよ。
俺が色々思い出した直後、会いに行ったらさ、いつものあの笑顔で。
「ねぇ知ってる? 幸福と不幸は裏表なんだよ。
不幸を知らない人は自分が今幸せだって分からないし、幸福を知らない人は自分が不幸だって気づけないんだって。
だからヒグチさんが今、家族が憎くて苦しいんなら、それはヒグチさんが家族との幸せを知ってるって事だよ。
それで、苦しみを知ってるヒグチさんは、これから沢山の小さな幸せに一杯気づけるの。それってとても素敵じゃない?」
ってさ。クサくない? しかもあの桂木らしい生ぬるい戯れ言。だってあいつ、幸福の固まりじゃん?
俺なんか聞いて爆笑しちゃったよ。でもさ、何か笑うと同時に泣けてきちゃった。
あ、今もヤバいかも……なーんか年かね、桂木の言った通り、本当に涙もろくなっちゃったや俺。
うん、確かにね、俺がネトゲ始めたのは親に構って貰う為だけどさ。
そのずっとずっと前、言葉も話せない、一人じゃ冷蔵庫さえ開けられない頃に死ななかったのは、その時はまだ、親が俺に構ってくれてたってことじゃん?
それで、俺がひらがなも碌に書けない頃にキー操作覚えてネトゲ始めるくらい親に構われたかったのは、きっと構われた記憶があったから。
だって猿の赤ん坊でさえ、ただの餌やりマシーンには懐かないんだぜ? ……だから、奴らは俺に対してそれ以上の事をしてくれた事もあったんだ、きっと。
確かにね、特に怒られた記憶はないけど、飯とか買って行った時にさ、こうマウス動かしてない方の手で、頭を撫でられたりした気はする。
……あんまり、覚えてないけどね。
あ、そうそう、誕生日っていえば、これは俺の仕事の先輩だった人が何の気無しに呟いてた謎掛けなんだけどさぁ……。
人が最初に貰う誕生祝いって、何だと思う?
って奴。その人は何か昔さ、誕生日に妹にいきなり問題出されて印象に残ったんだとさ。
「答えは簡単、名前です」ってさ、あ、聞いた事ある? 結構有名なんかな、これねー。
だから、名前がある人間は誰でも最低一回は、誕生日プレゼントを貰ってるんだってさ。その人の妹曰く。
親族の名前から一文字だったり、願いだとかいった感じで。
うん……確かに。その人の妹さぁ、何かさっき言った桂木に似てたらしいんだけど、こういうの言える辺りマジかも。
その上司と妹さんは、何か大事なモン守れとかそんなんだったかな…適当に聞いてたから忘れちゃった。
あぁ、まぁ、詭弁っちゃ詭弁か……。
ってか、言っとくけどここまで全部、俺の知り合いの言葉だかんね! 俺の言葉じゃねーよ!! やめろよ恥ずかしい。
てか、俺の名前の意味? んー。俺のはたぶん……人の絆じゃねーかって思うわ。
あー、モチ、両親に聞いた話じゃないよ? そーゆー宿題出た事はあったけど、何かコテハンの由来とか聞かされてソッコーでチャットブチったしさ。
だいじょーぶだいじょーぶ、今となっちゃ笑い話だかんね。
なら誰から聞いたかつったら、さっきのと別の、もっと偉い上司ね。居丈高のちびメガネ。
多分、俺の職場のマスコミ会見とかで見る顔だから、見たら多分、「あーっ」って言うわ。
そいつがさー。俺をスカウトするだか何だかで?
ゲーセンにね、部下一人連れて入り口に車で乗り付けてさ、プッ、くくっ……いきなし呼び捨てでフルネーム呼んだ後、こーいうんだよ。
「結也か……いい名だな」って。
俺ん中ではポチとかミケとかとあんま変わらない感覚だったからさ、「はぁ?」と思った訳。
それで「あんた何いってんの?」聞き返したんだけど、何を勘違いしたんだか……鼻鳴らして自慢げに胸張って語ってくれちゃってね。
「也に『人』が加わり他。他と人と結ぶ、つまり絆ということだろう?」
や、ごめん、笑わないであげて……あの人マジで言ってたから! やめ、やめて俺も腹痛い……!
ケホッ…っくく。んな訳でさ、その上司と桂木の話を集めるとつまりまぁ、何か色々もらってるらしーんだわ、両親から。
だからまぁ、許して貰えなくても、許してやってもいいかなぁって。最近そう思うよ。
この前ふと、そーゆーの何て言うんだろって聞いたらさ、「祈り」じゃないかって。
祈ってるのかねぇ俺。南無阿弥陀仏って……あ、そっかこれ言わなくていーんだっけ。
まーたやっちゃったよ。いけないねー。
あ、そーだ俺、大事な事言われてなくない?
「誕生日おめでとう」って。まぁ、この後嫌ってくらい言って貰えるんだけどね。
すごいね名前の力って。俺、随分色々結んじゃったっぽい。
もっとエグい幼少期とかも考えていたりはする一応。
date:2011.10.01