年の始めにほのぼのと。


お正月期間中フリー配布(お持ち帰り自由)となっています。
*あからさまに飲酒をしている場面や、
 穿った見方をすると露骨なエロに見える場面が多々有るので苦手な人はご注意下さい。

08'年度、突発お年賀SS


暗くなり始めた窓の外には僅かに雪がちらつき始めていた。
部屋の隅に置いた点けっぱなしのテレビからは相変わらず、正月の特番が流れて新年の空気を煽っている。
それを目の端で捉え、弥子はこたつの上に置かれた籠に手を伸ばした。

「はむ……おいひ。やっぱ冬はあったかいコタツで冷たい蜜柑で決まりだよ!
 アイスとか冷酒とか……あったかい所であえて冷たい物を味わうのが冬の贅沢って奴だよね−」

そう一人呟き、いくつ目になるか分からない蜜柑の皮を剥きつつ、そろそろ終わりの見えてきた日本酒の小瓶を傾ける。
1〜2人用の小さなコタツの上と彼女の傍らには蜜柑の入った籠の他に、空になった重箱やツマミの袋などが雑然と積み上げられている。

「フン、蜜柑キャラメルのような顔で何を言うか」

向かいに座し、内容の薄いテレビを頬杖をついてつまらなそうに眺めながらの魔人の暴言に弥子は肩をすくめ、 片手で頬杖をつき、至極つまらなそうに目を細めたままの横顔に抗議の視線をぶつけ、グラスを一気に煽る。

「ったく……新年早々、そ−ゆ−反応しづらい暴言はやめてよね。それならあむっ、ん。微生物に例えられた方がよっぽどマシだわ、んぐっ。……んふ。
 コタツって、天板が冷たいのがまたいいなぁ……。
呑んでほてった頬っぺたを押し付けて、ウトウトまどろんでみたりして」

言いながら、弥子は左頬を天板に押しつけるようにして背を丸めた。
位置調整のための僅かな身じろぎで額から滑り落ちた落ちた短い蜂蜜色の前髪が黒い天板の上にふわりと広がる。

「ほうほう」
「いやいやぁ、あんたの身長じゃ逆にキツいと思うよ?ていうか身体の規格自体が日本のコタツの想定外だしさ……」
「むぅ……。以外とキツいな」
「って、早速やってやがるよ!?」

身体をずらし、天板に顎を乗せるように体制を変え、向かいの席へと視線を上げた弥子は、高い身長を猫のように無理矢理に丸め、自分と同じように天板に顎を乗せたネウロと目が合い、盛大に飛び退いた。

人体であったなららギチギチと背骨が軋む音でもしそうなほど不自然な体制に生理的な怖気を覚え、ぞわりと鳥肌が立つ。

「怖い、何か全体的に超怖いよ! 人間の骨格完全無視にも程があるっつーか……。
 せめてもう少し後ろに下がりなよ、コタツから身体離して」
「むぅ−……」

緑の目でまっすぐとこちらを捉えたまま僅かに腰を引き、どうにか違和感のない体制に直った魔人にふうと溜息を吐く。

「ん、それでオーケ。……全くっ新年早々いらんツッコミ入れさせないでよね」

人心地ついた弥子は再びコタツに足を入れて背を丸め、天板に頬杖をついて頬を膨らます。
「フン、貴様が勝手に入れているのだろうが」

上半身を天板の上に沿わせたまま鼻を鳴らし、視線だけで見上げて来るネウロからふいと視線を逸らし、弥子は残りの日本酒をグラスに注ぎ、ついに空になってしまった瓶を振り、ふぅ、と溜息を付いて放り投げる。
 ころりと天板の上を転がった青い小瓶は、そのまま下のコタツ布団の上へと落下した。

「『コタツというものを体験してみたい』とか言い出したのはアンタでしょ。  わざわざ部屋を提供してやってるんだから、最低限人らしい態度取ってよぉ−んくっ。一応ぉ、下にお母さんもいるんだしぃ……さっ!」

コタツの中、膝に当たった軽い感触に魔人は正面の少女を軽くにらみ上げる。

「人の足を蹴るな、この馬鹿者めが」
「くふふ……えいっ、えいっ!!」

しかし相手は全く意に介する様子もなくグラスを片手にへらへらと笑い、足の爪先でひっかくようにしてあちこちを蹴り上げて来る。

「ふぅ……。この、酔っ払いめがッ」

最初は寛容に無視を決め込んでいた魔人も、段々と苛立ち、小さな嘆息とともについに反撃に出る。
柔らかい箇所に足先を突き立てうにうにと動かすと、弥子は背筋を戦かせ、小さな悲鳴を上げた。

「ふぁっ! んっ……む−、ネウロの卑怯者−! ソコ脚じゃないしッん……ふ、はぁっ。
 何より私、おなじっ……とこ、何度も蹴ったりして……なァぃ!」

酒の影響で平静よりも赤みを増した頬と目元。その目尻には羞恥によってか僅かに涙が浮かぶ。
出来るだけ身体を離そうと尻で後ずさるが、元々の手足の尺の違いから無駄な努力に終わった。

「黙れ呑んだくれが。先に仕掛けた方が悪いのだ。フハハ……それこそ、ほてった頬を天板に押し付けて耐えていたらどうだ? ほれ、ほれっ」
「んっ、んんっ……ばか魔人っ、もう知らないぃっ!?」

黒い天板の上に突っ伏した弥子の頬を伝い、唾液が一筋垂れ落ちた。




*お酒は20歳になってから。


もう一度言っておく。最初はほのぼので大晦日ネタでした。
そして、蜜柑キャラメル云々は07年の締めくくりとして、07年流行の某ケータイ小説をひにくってみただけですので悪しからず。

お正月中フリーという事にしましたが、期間は自己判断にお任せします。
「俺は一年中お正月だ!」という方がいましたら、何月に持って帰っても全然okです。


date:2008.01.04
文章改変:2008.01.05



Text by 烏(karasu)