愛なんてどこで叫んでもいいじゃない


「その眸はマラカイトのように」50000hit記念SS

「誰か、助けてください!!」

 TVの中の俳優が、女優を抱いて叫んでいる。感動的なシーン……らしい。学校の友達はぼろ泣きしたって言ってたっけ。
「貴様もまさかこんなもので泣くのか?」
「いっ、いーじゃん、泣いたって」
 後ろから声がした。振り向かずに答えた声が震えているのなんて、簡単に気づかれてしまう。

 好きな人が死んでしまう、なんて考えただけで涙が出るよ。どーせ魔人にはそんなの解らないんだろうけど。

「ふむ……この男は無駄なことをしているな。オーストラリアに行く金があれば、治療費にすれば良いものを」
「え、だって、白血病だよ?」
「この豆腐が。白血病は不治の病ではないぞ」
「嘘っ!?」
「嘘ではない。治療法もかなり改善されてきている」

 え、白血病ってなったら死んじゃうんじゃないの? 知らなかった……。確かに、それを知っていたら感動できないかも。

「まあ、治すのが難しいことには変わりないが……しかし、無理にこうして寿命を縮めることもないだろうに」
「そ、そうなんだ……でも、それ言ったらおしまいだよ、これ」
 涙を拭いながら、精一杯ネウロの言葉に反抗してみる。負けるのは解ってるけどさ。

 ネウロは、ドラマに重ねて思うことはないんだろうか。例えばこれなんて、私達に当てはまりそうじゃない。先に死にゆく女と、それをどうすることもできず、取り残される男。
 私が死ぬときは、ネウロもこんな風に泣き叫んでくれるだろうか。……ないかな。今だってこんなコト言ってるくらいだし。

「貴様はこの男のような行動を我が輩に求めるのか?」
「え?」

「恐らく貴様は我が輩より遙かに早く死ぬだろう。そのときは、泣き叫べばいいのか?」
「ネウロ……」

「泣き叫び、逝くなと命令すれば、貴様は安らかに死ねるのか?」

「…………」  安らかに……どう、だろう……。死ぬ間際のコトなんて考えたこともなかったけど。だけど。
「そう……だね……。ちょっとは悲しんで欲しいかも。でも……」
 振り返って、正面からぎゅっとネウロを抱きしめる。

「私だったら……最後の最後に、ネウロの笑顔が見たいなぁ……」

 一筋、涙が頬を伝った。うん、最期に見るのは、笑顔が良い。そして、叫ばなくても良いから、そっと愛を囁いてくれたら、それで充分、お釣りが来るよ。
「そうか……」
 私を抱きしめる腕が微かに震えていた。そうだ。私にとって、死ぬのなんてずっと先だと思っていたけど、ネウロにとっては長い寿命の中の、近い未来の出来事なんだ。

 私は、ネウロを一瞬強く抱きしめて、体を離した。少しだけ距離をとるために後ろに下がって。

「ネウロ、大好きだよ!! ずーっと、一生!!」

 思い切り大きな声で言った。ここは世界の中心なんかじゃないけど、ここで叫んだっていいでしょ?

「フッ……このワラジムシが……」
 嬉しそうな顔で悪態を吐くネウロ。つかつかと歩いてきて、私を力一杯抱きしめた。そして、耳元で小さく、本当にギリギリ聞き取れるくらいの声で。

「愛してるぞ、ヤコ……」

 そぉっと、囁く。内緒話みたいに、私だけに大切なことを伝えてくれた。
「我が輩は叫ぶなどせん。貴様にだけ聞こえれば充分だろう?」
 甘い甘い、ピアニシモ。だけど、どんな大音量より私を震わせる。

 そっと降ってくる唇を、唇で受け止めた。今、私が死んだら、死因は「幸福」だなぁ。

「その眸はマラカイトのように」のHINA様宅から強奪した、50000hit記念のSSです。
こういう甘い物を真っ向から向き合って書けるのは凄いなぁと思います。
頂いたまま、中々upできなくてすみません……。
以下、ちょこんとしたお詫び。


「貴様はずっと、我が輩の手の内にあれ。我が輩に救えない命など、投げ出してしまえば良い」
「ならさ、全力で救ってよね。全ての手を使い尽くして、後悔の一つだって残さないで見送ってよ!
……じゃないと、死んでも死にきれないんだから!」
「いいだろう。……約束だ、ヤコ。何一つ、心残りのないように殺してやる」
――あぁやっぱり。
最期にその笑顔が見れたなら私は、きっと何一つだって後悔しない。

お粗末様でした。


date:2008.01.07