せるふ らっぴんぐ


かぼちゃら様から頂いた相互リク、「本人達は無自覚なのに、端から見たらバカップルなネウヤコ」です。
リクエスト頂いてから実に半年以上も経って、漸く完成しましたっ!
※時間としては、143話と144話の間で、移動風景みたいな感じです

くるりと回してしっかと結んで。

ねぇっ、聞いてよ聞いてよ葛西っ、葛西っ! ネウロってばサ、酷いんだよ−! あいつってばさ、ボクの前で、ボクの前でっ……!
 ……え、話が見えない? そもそも、ボクが今日、勝手に単独行動して何やってたのさって?

フフンっ、よくぞ聞いてくれました!
実はさ、前回、一人で突っ走って警察に包囲されて、葛西に助けられた事を反省してさ、事前に調査してから襲撃しようと思った訳なのさ!

どう? 偉いでしょ? ……えー。そりゃ葛西がフォローに人を回してくれた事は感謝するけどさー。
 うーん。悪気はないんだよ……ボクとしては賢い思いつきだと思っただけなんだ。
 ……まぁいいか。

そんな訳で、ボクは前回の失敗を反省して、今日は、ちゃんとリサーチして、ついでに、ネウロがちゃんと一人になったかを確認してから襲撃しようと決めたんだ。
あ……うん。反省してるから、次に話進めてもいい?

で、あいつらの事務所の向かいのビルのテナント会社に紛れ込んで、常にあいつらを張ってる協力者に頼んで入れて貰って、部屋の見える所で張ってた訳なんだよ。

そんな事したら気づかれてたろう、って、アハハ、んな訳ないって、だってネウロ、こっちをちらりとも見なかったよ!

ずっと、所長用の机に座って、コッチに背を向けたままで頬杖ついて、何かの画面を覗いて、ゲラゲラ笑ったり、かと思ったら溜息なんかついたりしてた。

だから、これはチャンスだと思って、あとちょっとで窓から飛び出しそうになったんだけど……一緒に居た奴ら、にすんでの所で止められてさ。

もうっ、何なんだよ……と思って手を掛けた窓枠の下の道を、どうやら、ボクが来るずううっと前から留守にしていたらしい、桂木弥子が帰って来た所だったんだ。

それで、ボクは襲撃を諦めて、また、乗り出しかけてた窓枠の内側に戻ったって訳さ!

ん……? えー、桂木弥子のおかげで命拾いしたなって何さ?
 それに、どっちかって言ったら、命拾いしたのは、ネウロと桂木弥子の方だろっ。

何でって……いい? 葛西。ボクはね、それなりに愛でるに値するアイコンを踏みにじるのは余り好きじゃないんだよ。

美しい物には、それなりの死に場所と死に方を与えなくっちゃいけないと思っている。
 それで、ネウロと桂木弥子は――特に、桂木弥子の方は、そんなボクの価値観に、本当のギリギリの位置で引っかかった。

つまり、あいつらは言うなれば、ボクの美意識のおかげで、あの事務所でアッサリと死なずに済んだんだよ。
 だからさ、あいつらが、助けてくれたボクに感謝する言われはあっても、ボクが桂木弥子に感謝する言われはないって訳!

あぁ……それとも葛西が言いたいのはこういうことかい?
 まだ誰かの手によって掘り返される前の、桂木弥子という名前の、それなりの原石に出会わせて下さった神に心から感謝しろって……!

えっ、えぇー、あのビルは、前に、サイが使ってた事があるから、ネウロは要マークという認識で見てる? あいつはボク達の監視に気づいてる?

いやいやまさか! もし葛西の言う通りだったとしたら普通、ちゃんと、ボクの方を見るだろ?

で……、もう話を戻してももいいかなぁ? 早く先に進めないと、お互い、困るだろう?
 そうだよ。全くさっ、葛西は心配性な上に、人の話の腰を折るのが得意なんだもんなー。参っちゃうよねっ。

で、ええと……どこまで話したっけ。あぁそうだ。桂木弥子が、何かちょっと緊張した、うっすら赤いほっぺたしてさ、ややぐったりして事務所に戻って来た所だったね。
 下からエレベーターに乗って、事務所に着いた桂木弥子が手前のソファに俯せに倒れてさ。そしてあいつら、何始めたと思う?

へっ? ななな……っ、何てこと言うんだよ葛西のエッチー! スケベ親父! 女子高生に人前でそんな猥褻行為したらこの国じゃ犯罪になるんだろう?
 ニホンでは高校生はロリータの扱いなんだろ!?

そうだよ、違うよ! バレンタインのチョコレート渡したんだよ!! しかもさ、すっごい手の込んだラッピングの奴っ!

そーだよ、ずるいよね。

このボクだって今年は忙しくて貰ってないし、欧米の方のバレンタインは男女平等にプレゼントする日だからーって言われて、あげてばっかりなのにさ……。
 あんな本命っぽいの……しかも、見返りを期待してなそうな女の子に……狡いよ。

え? ボクが憤慨してたのはこの事かって? 違うよ! この話には、まだまだ続きがあるんだから! そんな呆れた顔しないでよ。
 うわぁ……。何でそんなに嫌そうにするのさ。大丈夫だよ、退屈させないから、ちゃんと話すから。

ボク、トークだけは女の子達以外からも、上手いって褒められるんだから!
 んでね、ネウロが桂木弥子から受け取ったチョコレートのラッピングだけ解いて、リボンと包み紙を無造作にポケットに押し込んだのを合図に、二人は事務所を出たん。

しかもチョコレートを燃やしてさー。ついでに桂木弥子の肩なんか抱いちゃって……え、ここら辺はいい? ちぇっ、分かったよ。
 で、勿論ボクも、それを追って外に出た訳だよ。大丈夫、大丈夫。窓から飛んだりはしてないよ! ……裏口の階段、2、3階飛ばしで下っただけ。

うん、そう。『段』とかそういうまどろっこしい単位じゃなくて、『階』。
 ……葛西? 今日は頭痛いの? え、今日もボクのせい?

じゃあ続き話す間、そこに座ってなよ。暖かい物とか薬とか運ばせ……いいの? わかった。葛西がゆっくり休めるように、さっさと話すよ。
 どこまで話したっけ……そうそう、ネウロが、桂木弥子の肩なんか抱いちゃって事務所を出て、それをボクが、華麗かつ俊敏なジャンプで追いかけた所までだったね。

で、まぁ、暫く後ろをつけて歩いてた訳なんだよ。ボクだってそう馬鹿じゃないからね、勿論、車なんかじゃなくて徒歩だよ。壁を登ったり塀を歩いてたりしない。
 あの場所もオフィス街だし、平日の昼間だもんね。数メートル離れて、人に紛れて後ろを付いて歩くだけで全然余裕さ。

……まぁ、服は何回か取られて、警察に気づかれないよう、ビルの影とかで着替えたけど。

それでさ、段々駅に近づいて来た辺りかな? ネウロの奴一回立ち止まって、桂木弥子に何か話し掛けながら、その肩に置いてたのと別の方の手をおもむろに上着の胸ポケットに突っ込んだんだ。

で、さっき桂木弥子に貰ったチョコレートを包んでたのらしい包装紙を出したんだけど……上着の影になったその手元を見て、ニヤリと笑って、包装紙を掴んだ手を一回、上着の腰の所のポケットに入れたんだ。
 でも桂木弥子はそれに気づかなかったみたいで、きょとんとした目でネウロを見上げたんだけど、ネウロに、もう一回取り出した包装紙を指さしながら何か聞かれてまた前を向いて。

それから暫くは歩きながら、二人でネウロの持った包装紙をのぞき込んで何かを話し合ってた。

で、桂木弥子の方がふと頭を反らすように顔を上げて、肩に置かれたままの手を指さして何か言ったら、ネウロがムッとしてその手で頭を掴んで、駅の方に向かってグイグイ引いて行ったんだ。

んで、そのまま駅に着いて、奴ら電車に乗ったんだ。その時には、ネウロが桂木弥子の頭を持って引きずりながら改札に乗ったね。
 ボクはここでも用心して、ちゃんと隣の車両を選んで乗ったんだよ! カードがあったから切符要らなかったし。

……え? 二人の買った切符の料金を調べて、車で先回りすれば良かったのにって? 流石だね葛西、頭いいっ!
 あれ……また頭痛いの? うーん、風邪かなぁ。それとも年とか……あぁっ、ごめんっ、ごめんってば!

んで、二人はホームで電車を待ってたんだけどさ、そのうちネウロが、桂木弥子の頭を持ってた手をふと離してさ、さっき、包装紙を取り出した時に一回漁ったポケットにまた手を入れたんだ。
 それで取り出したのが、さっきのチョコレートに包装紙と一緒に付いてた、黒地に金色の刺繍が入ったリボンだったんだ。

そのまま、線路を向いて立ってた桂木弥子の背中に回ってさ。振り返ろうとした桂木弥子の頭を両手で重いきっり挟んで捕まえて止めて、両耳を塞いだまま、わざとらしく頭上の電光掲示板を指さすんだ。
 それで桂木弥子の注意が逸れた一瞬に、さっきのリボンと桂木弥子の短い髪の一束とを手早く両手に取って、その頭の後ろに、あっというまに大きな蝶結びを一つ作っちゃって。

一回、口元に手を当ててさ、クツクツって笑ったら、あとは、また一緒に線路の方を向いて、そ知らぬ顔して電車を待つんだ。

でね、その電車ってのがさ、都市部から離れた所に行く電車だったんだけどね、桂木弥子の学校みたいに、まだ水害で休みの学校とか会社もあったのかな。結構人も多くってさ。
 皆ね、遠目から見てクスクス笑うんだよ。
 うん、勿論、ボクは堪えたよ! そりゃそうだよ、笑ったら見つかっちゃうかもしれないもんさっ!

だけど、桂木弥子だけは全く気づかないで、全然、普通にしているんだ。
 相変わらず線路の方を向いてネウロと何か話しながら。
 たまに、コートの腰と襟首を掴まれて線路に投げ込まれそうになったり、クスクス聞こえた後ろの笑い声に振り返って、逸らされた視線に首を傾げたりするけど、すぐにまた、何でもないようにして背中を向けるんだ。
 それでまた、隣のネウロに肩で押されてよろけたり、その事で何か言い争ったかと思ったら、次には笑い出したり。

するとね、その頭の上で、小さな黒いリボンが猫の耳みたいにぴくぴくと動く。だけどやっぱり、本人だけは気づかないんだ。
 そんな訳で、電車を待ちながら随分な時間が経ったんだけどさ、不思議な事にね、その間誰も、頭に付いてる、明らかにお菓子の包装用なリボンの事を、桂木弥子に言えないんだ。

クスクス笑って面白がって見ている周囲も、別にネウロや誰かに脅された訳でも、黙ってるように言われた訳でもないのにだよ。
 うん。あぁ確かに……ネウロが上手く気を逸らしてたから、そのせいなのかも知れないね。

だけど、実際に見てるとね、本当に不思議な光景だったんだよっ!
 そうだな……まるで、そのリボンが、それこそ猫に三角の耳があるように、桂木弥子にはあって当たり前の、何の変哲もない物の感じっていうか。

桂木弥子にはこうやって、常にネウロの付けた『シルシ』が付いているのかも知れないと、半ば当然的に納得しちゃうような感じっていうか。
 当の桂木弥子自身も、自分にそういう『シルシ』が付いている事は当たり前のことでさ。

もちろん、初めて桂木弥子を見た人にも、まだ桂木弥子に会ったことにない人からしても、当たり前みたいなさ。
 だからこれは誰も気づかないんでも、気づかない振りをしているんでもなくて、ただ気にしていないだけのような。

誰が見たってゼッタイ変なのに……変じゃないんだ。
 そんな事考えたの、確かに葛西の言うように、ボクだけ……なのかなぁ。うーん、分からないや。

そのうち、電車がホームに来てさ、蜂蜜の色をした髪の上で、猫の耳みたいなリボンは、がーって滑り込んで来た電車の空気に揺られて結び目が少しだけ緩んで。
 桂木弥子は、降りる人とすれ違うようにして、何かいいことがあったみたいな軽快な足取りで車内に乗り込んでったんだ。

ボクは、二人が乗り込むのを確認してから隣の車両に乗ろうと思ってたからじっと見てたんだけど、ネウロはふっと笑って、桂木弥子の後ろから、緩んだリボンを引っ張って解いたんだ。
 そうそう、キザな事にね、わざとらしく目を伏せて溜息なんか吐いて、ちっちゃな口づけなんか落としてみたりしてさ。

うん、そうなんだよ葛西。確かに桂木弥子の頭から解いたそれを、ネウロはもう一回、上着のポケットに入れてから電車に乗り込んだんだ。
 なのにさ、なのになんだよ!

駅に着いて、電車の中で手配して回しておいた車で、奴らの目的地近くの公園に先回りして、駅からバスに乗った奴らが降りるの見た時にはね……また付いてたんだよ、リボン!
 しかも今度は、わざと大きな結び目にして、輪になった所がさ、頭のてっぺんから確実に覗くように調節してあるんだよ!

なのにさ、桂木弥子はソレに全く気づかないんだよっ! ゼッタイおかしいよねっ!? ねっ、おかしいって思うのボクだけじゃないでしょ?
 なのに……やっぱり誰も何も言わないんだよ! ヘアピンを付けた、明らかにお年頃な女の子が、頭にお製菓用のリボンで大きな結び目付けて歩いてるのにだよっ。

バスでお金払う女の子の後ろで、連れの男が口元押さえてそっぽ向いて、プッて吹き出しているのにだよっ!
 え……皆、アベックだと思って微笑ましく見えてたんじゃないかって? 葛西にもそんな若い頃があったの? アッハッハ!

あぅっ……ごめん、ごめんっ! いや、いいよ、ロマンティックでいいと思うよ!
 だから胸ぐら掴まないでよもうっ。シャツ伸びちゃうよ!

まったくぅ、いい年した男が顔赤くしたってね、アイコンの優れた女の子と違って、何一つ可愛くないんだからねっ!
 あっ、あー……。んじゃあ、葛西が昔の事を思い出してちょっと恥ずかしくなった所で、また、元の話に戻ろうか。
 それで、バスが着いた所は都心から離れた街の、更に市街地から入った団地の入り口だったんだよ。小高い丘の片面を覆う団地で、ボクが車を寄せた公園が丘の裾でのほぼ平地で、団地の入り口になってるって訳。

あぁ、車はそこに置いて行ったよ! うん、今日部下達に拾って貰ったあの車。
 後からホイールとハンドル抜かれたせいで廃車になっちゃったけどさー、その時は別に、駐禁もワイパーも取られなかったけど……それが?

……あっ、そっか、葛西は頭痛いんだったね。じゃ、細かい事はいいから、さっさと先に進めようか。
 それで、今度は住宅街だから、時折路地に隠れながら慎重に進んだんだけどさ……変な感じだったよ。
 日本の冬の昼下がりだし、高い建物のない住宅地だからね。空が透き通るように青くて、えぇと日本語だとぉ……のどか?

そう! のどかって言うんだよねっ。前にヴィジャヤに教えてもらったんだー。
 そんな、のどかで当たり前の景色の中に、ぽつんと青いスーツの男と、その隣に小走りに並んで歩く女の子がいてさ。

その女の子が、走ったり、頭を振ったり、何かを指さして隣の男に話し掛けたりする度に、頭の上で、リボンが猫の耳みたいにふよふよ揺れる。
 その、お菓子屋さんの名前が入った黒いリボンを追って、少し離れた所をボクが歩いてる。
 それって、やっぱり凄く不思議な感じでさ。何だかね、自分が何でそこに居るのか、段々分からなくなって来るんだ。
 金色の髪の上でリボンが揺れるのも当たり前なら、ボクがこいつらの後ろをこそこそ付けて歩くのも当たり前のような。

一体、何がおかしくて、何が普通なのか、段々と攪拌されて、よく分からなくなって行く感覚っていうのかな。
 え? ボクが普通って言葉使うのそんなに変? もうっ、葛西ってば失礼だなぁっ!
 でさ、その時のネウロもきっと、ボクと同じような、そんな感じの気持ちだったんじゃないかな、って。
 というのもね、街中や乗り物と違って、昼下がりの住宅街となると、誰ともすれ違わないでしょ? だから、桂木弥子はいよいよね、ネウロのいたずらに気づかないんだよ。
 ネウロはそれが面白く無かったらしくてね、ある時急に、むっと眉を寄せたら、唐突に、ちょうど通りかかった生け垣の方を振り向いて、その向こうを指さして何か言うんだ。

で、その生け垣ってのが大体、桂木弥子の背丈くらいだからさ、桂木弥子は何があるのか見ようとして、咄嗟にジャンプするだろ。

その隙にネウロ、自分の鼻先にまで飛び上がった頭を捕まえてまた一瞬でリボンを解いちゃったんだよね。
 で、地面に着地した桂木弥子が、何も見つけられないで、呆れた顔で振り返った所で足その足を踏んで。
 ブーツの甲を両手で押さえて蹲っている間に、自分もしゃがんで、桂木弥子のブーツの右足と、自分の左足を、そのリボンで結んじゃったんだ。

リボンを結び終わると同時に上がるもんだから、当然、桂木弥子の方が尻餅をついてね。 何するんだとか言うのに、ネウロは何か言って笑って、頭を掴んで引き起こして、また歩きだそうとしたんだ。

当然、そのままだと引きずられるから、桂木弥子が、ネウロの腕に縋っておずおずと足を進める。
 だけど、ネウロの足に引っ張られて、すぐ転びそうになって、余計にしっかり縋る。
 うん……そう、葛西の予想の通り。そっから後は、ネウロがまた、桂木弥子の肩抱いて、桂木弥子がネウロと腕組んでで二人三脚。……まぁ、殆ど一方的に桂木弥子が引きずられて、縋ってる感じだったけど。

それがさー、リボンがお互いのブーツや靴と同じ色だから、全く目立たなくてさ、端から見たら、カレシとかカノジョとかがふざけ合ってるようにしか見えなかっただろうね。
 女の子の方が、「やめてー!」とか「いやぁ!」とか言って縋るのを、男の方だニヤニヤ笑って支えたり、わざと転ばそうとしたりしてるの。どこの国でもたまに見るでしょ?

まぁ、車一台がやっとな狭さの、家と家の間の路地に曲がって行って、目的地らしい家に着くまでの10分ほどの間だったから、頭のリボンと違って誰に見とがめられたって事も無いだろうけど。

でもさー、これもやっぱり不思議なんだけどね。
 人が沢山居て、誰も桂木弥子の頭のリボンを指摘してやらなかった時よりも、誰もいない所で、細い肩を抱いたり、長さの違いで引っ張られる足に恐怖して、長い腕に縋ったりっていうその状況の方が、よっぽど普通っぽいんだよね。
 まぁ……そんな訳で、沢山並んだ同じような、ウサギ小屋みたいな小さな家のうち一個の玄関で立ち止まってさ。

そのドアの前に来てやっと、ドアに縋るようにしてネウロから離れたんだ。
 桂木弥子は合わない歩調を合わせたせいか、ぜいぜい息が上がっててさ、後ろでされたらしい舌打ちも聞こえてない様子だった。
 で、息を整え終わった桂木弥子がその家のチャイムを押す間に、ネウロがその足下にしゃがみ込んで、やっとリボンを解いたんだ。

それで、しゃがんだまま、また手の中の汚れたリボンを見つめてさぁ……それがね、今日、ボクが散々見た、あの笑顔なんだけどね。
 翡翠みたいな目を細めて、赤い口から牙を見せてにやぁって笑う、あの、『チェシャ猫のように笑う』っていう、成句そのまんまの。

それに全く気づかない桂木弥子の後ろで、散々足下で引きずったせいで泥だらけになったリボンをさ、立て膝のまま荒縄か何かのようにピンと張ったと思ったら、すくっと立ち上がって背を曲げてさ……一体、何したと思う。
 ドアに寄りかかる桂木弥子の腕を引いて、そのコートの袖を軽く巻くってさ、電車を待っている時や、そこの路地でその頭や足に同じリボンを巻いた時くらい手早く、コートの袖から覗いた白い手首に、リボンを巻いたんだ。

片手と口を使ってリボンを引っ張って結んで――自分の手首と一緒にしてさ。
 一体何が起ったのか分からなくて、腕を取られて振り返ったまま固まった桂木弥子に、リボンを口に咥えたまま口元綻ばして笑いかけて、また元のように背筋を伸ばしながら、きゅっ、と、最後の結び目を絞める為にリボン引っ張ったんだ。

そこで桂木弥子、やっと何されたか分かったらしくてさ、もう顔を真っ赤にして振り返って、自由な方の手でネウロの胸をドンドン叩いて何か叫ぼうとしてたんだけど、同じく自由な方の手で開けてすぐの口を塞がれてさ。

結果的にはネウロに抱きついた状態の桂木弥子がさ、ネウロが顎で指した、背後のドアと自分の背中に腕を回すネウロの顔を赤くなったり青くなったりで見比べてた。
 だから……騒ぐと人が来るとでも言ったのか知れないね。

でもさ、あの子も結構気丈でね、それでもまた、口を開こうとしたんだけど……耳元で何か言われてさ、そのまま、びくんって震えて黙っちゃったんだよ。
 ボクに初めて口説き落とされた女の子が、感激で震えるあの感じに似てたけど……うーん、もう少し自然だったかなぁ。何か、慣れてる感じ。

で、またドアの方に向き直って、今度はちゃんと、チャイムを押したんだけどさ、結ばった方の手を背中に隠して、真っ赤な顔して、玄関のカメラに何か話し掛けてるんだ。

その間に、指を絡められて手を繋いだりなんかしてさ。時々、その繋いだ手を、わざとカメラに写りそうな感じに思い切り揺らされるのを、背中に体重預けて、必死に自分のお尻で押さえつけたり、空いた手も使って、必死で後ろ手に捕まえたりしてさ。

それで、ドアが開いて、中から人が出て来て招き入れられても、ずっとそのまま。
 まっさかぁ! 流石に、次に公園で会った時にはほどけてたよ! コートに隠れてたから、片方の手にまだ結んであってもわからなかったけどさ。
 いやぁ、日本人って奥ゆかしそうに見えて、結構倒錯してるんだね! え? あいつらだけが特別だって? またまたぁ−。

え、それで結局、ネウロの何がひどかったのかって?
 そうだよ! ネウロがボクの前で一々、桂木弥子にリボン結んだり突っついたり叩いたり肩抱いたりとかする度に、身構えたり目を逸らしたりしたせいで、その度に電柱にぶつかりかけたり溝に落ちかけたりそりゃ大変だったんだから!

電車だって、何か、ホームに居る他の人と目が合うだけで微妙な空気になって……相手が日本人なモンだから、不気味に笑いかけてくるし!

しかも奴ら……このボクなんかより人目を引いて、何倍も何十倍も目立つしっ……!
 まぁ、帰りがけに散弾銃の弾を撃ち込んでやったから、それでおあいこにしておこうかな……今頃、傷だらけの情けない姿を桂木弥子に見られてゲンメツされてるよ。

だけど……本当に勿体なかったなぁ。あの桂木弥子って子、若いし東洋人だしで、今は犯罪なくらいのロリータだったけど、数年くらい経ったらお近づきになりたい感じの子だったのに。

え……? ネウロは最初からボクに気づいてて、ボクがそんな事考えてるのにも気づいていたんじゃないかって?
 そっか、アレが嫉妬って奴なんだ! 葛西ってば、今日は凄く冴えてるね!
 え、ボク? だって、嫉妬とかそういうのと無縁だもの。寧ろ、取り合いっこされる側だし?

あれ……頭痛が悪化したからもう帰るって……。大丈夫かい? 何なら車で送って……。
 必要ない? じゃっ、バイバイ。気をつけてね! 今度は後でちゃんと、ネウロとの決闘の場所と時間、ちゃんと事前に電話で知らせるからねー。
 


以上、かぼちゃら様への相互リクエスト、「端から見たらバカップルにしか見えないネウヤコ」でした。(ですよね?)
目撃者は吾代さんにしようかとも思ったのですが、かぼちゃら様と来たらやっぱりテラだろう! という事になりましたw
お馬鹿さんな口調が、無駄に難しかったですw
リクエスト頂いてから……構想に半年以上かかってます。その間に原稿したり、他の方のリクが仕上がったりと本当に申し訳ない感じです。
その分が、かぼちゃら様への愛情で補えているといいです! なんてw
かぼちゃらさま、遅くなりましたが、良ければお受け取り下さい。


date:2009.11.21



Text by 烏(karasu)