鹿鳴(ろくめい)


ついったでやった枯渇絵チャで悪ノリしました。
けもみみ枯渇、鹿の角。パラレル。

春を迎えられるのか。

「では、行くか、ヤコ」
 呼ぶ声に、ヤコは耳を伏せることで答えた。
 さく、さく、と殆ど腐葉土になりかけた落ち葉を栗色の小さな耳を伏せた子鹿と、殆どカモシカのように白くなった大鹿は、里から山に踏み入る。
 一回り程体格が違うのに、どちらともなく並んで歩き、それにヤコはうら寂しさを覚えた。
 どうしても歩幅の合わない大きさ故に、どんなにヤコに歩幅を合わせても彼は半歩前を歩くことが常だったのに。
 ずった並んで歩けるようになりたいと思っていた。
 だが、並んでしまえるようになった今、自分は何て残酷な願掛けをしたのだろうと思う。
 かさり、歩を止める。
 横を歩く彼の角ごしに見上げた紅葉は殆ど散り、残っているのは絡み合った白い枝だけだった。
 もうすぐ秋は終わり、森は冬の間、息を潜めて死のうとしている。
 そのうち息も、枝も、空気も足下も真っ白になる冬がやってくる。冬の後には春が。
「……ネウロ」
「何だ」
 木を見上げた振りで見上げていた白い頭が立ち止まったヤコに気づかなかった振りをして、半歩前で止まり、振り返る。
 話に聞く珊瑚のようだった自慢の角は殆ど欠けて、金と黒の毛は殆ど白く変色している。
 戦う為に欠けた角。散った落ち葉。
 間もなく冬がやってくる。春になるとまた芽吹く。
 だけど、折れた角はどうなるのだろう、艶が消えた金毛はどうなるのだろう。
 ――それらはまた、春にまた、戻ってくるのだろうか。
 春には、並んで歩いているのだろうか。それともまた半歩前を歩く金毛を追いかけるのだろうか。
 ネウロの言うように、心配のないものなのだろうか。
 問う代わりに、いつものように、両手で角を掴んで引き寄せる。怪訝そうに顰められた額に自分のそれをぶつける。
 大丈夫、角が足りなくたって、いつも通りのコミュニケーションを取ることは出来る。
「何でもない、行こう」
 山に登ったら、一杯色々な物を食べよう。そうしたら、角も生えるかも知れない。
 さらさらと流れる雪の色が、また日向の色に変わるかも知れない。
 今はそれでいいのだ。後は、冬が終わったら考えればいい。


date:2012.?



Text by 烏(karasu)