甘え枯渇さん


ついったでやった枯渇絵チャで悪ノリしました。

枯渇すると(されると)弱い。

「帰るのか?」
「そりゃ、帰るけど……」

 立ち上がろうとした体制で言いよどみ、その目をじっと見つめる。ネウロは目を逸らさない。
 シャツから僅かに覗いた指先で、私の服の肘の所を摘んだまま。
 いつもみたく、有無を言わさぬ力で掴んでくれればいいのに。

「じゃあ、ちゃんと寝てね」
「貴様も、気をつけて帰れ」

 口ではそう言って、腹に落ちてた毛布を肩に掛け直し、寝返りをうつ。
 まっすぐ視線の合わない仰向けから、私の顔がのぞき込める横向きに。

「うん、じゃ、また明日」

 そう言ってまた立ち上がろうとすると、肘を摘んだまま持ち上がる腕。
 毛布が肩からずり落ちる。

「……ネウロ」
「では、また明日だ」

 色が薄く、さらりと流れる髪を梳かし、窘めるように声を低める。

「さっきから、言ってることとやってることが違うんですけど……」
「帰るのだろう?」
「うん、帰る」

 落ちた毛布を肩に掛け直す間も、手は離れない。
 指摘に、バレたかとか何とか言って悪びれる様子もない。

「明日朝一で来るから、いいこにしててね」

 わざと、幼い子を窘めるように言って、皹割れてカサカサの頬に両手を置く。
 額を付けてその目を覗き込むけど、嘘を言ってる時の意地悪い影がない。
 引き留める手と帰宅を促す言葉。そのどれもが矛盾していないとでもいうふうに。

「……帰るのか」

 カサカサの唇から、至近距離で囁かれた言葉が私のソレを撫でる。
 肯定以外を促すように。

「うん。帰る。終電がなきゃ駅からタクシーで」
「そうか」
「うん、そう」
「――本当に?」

 いつの間にか、袖を掴んでいた手が私の頬にぺたっと触れている。
 いつもみたくニヤニヤと笑ってくれてれば振り切れるのに。

「本当に、帰るのか?」

 いつもより色が薄くて、まるで底の色が見える海や、ガラス玉みたいだ。
 電気を消さないで、と駄々をこねる子どもみたいだ。
 そこに、一切の嘘が無いみたいだ。

「本当、に」

 寧ろ、私が嘘を付いているようで、目を逸らす。
 その間も、澄んだ視線は頬に突き刺さり続け、でも頬に置いた両手を離せない。

「帰るのだろう?」
「ん……」

 頬から下りた手が首を辿って、そのまま背中に回る。

「遅くならないうちに、早く帰れ」

 合わせていた筈の額が鎖骨の上に乗る。
 至近距離で聞こえた声が、いつの間にか肩口で聞こえる。
 シャツの合わせ目から入り込む吐息が心臓に当たった気がする。

「気をつけてな」
「ん……」

 もう一方の手が、私がやったみたいに頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
 その腕を目で追うと、肩幅の緩い袖から色の薄い腕が覗く。
 最低限の筋肉はついているのに、傷だらけで不健康そうで。
 中空にあった手を、片方はその手の上に。
 もう片方を、色の薄い髪の上に。

「今日は、泊って行くよ」
「……」
「ね、今日は寒いから……一緒に寝よ」
「……」

 返事の代わりに、背中から襟足を引っ張られた。



date:2012.?



Text by 烏(karasu)