涼しい顔してそう言いますが、内心は心臓も張り裂けんばかりに違いないでしょう。
現に、対戦者をチラチラと伺う目は泳ぎ、その碌に日に当たらない不健康で生白い頬が僅かに赤く染まっております。
「フン……この道t(略)が」
そして、その控えめな視線の先の挑戦者は、大食いと言えばこの方、そう、僕らが桂木弥子先生です!
「えへへ、魚肉ソーセージ食べ放題だって聞いたから、張り切って来ちゃいました!」
照れを含んだ不遜な視線を受けても、にんまりと微笑むその唇にだまされるなかれ。
その華奢な身体の中に飼うのはウワバミか伝説のウロボスか、ソーセージに食い付いたが最後、じゅるりと丸呑みにして最後の一滴までも吸い尽くすブラックホール!
「ちょっ!? 何その誤解を与える説明! ……ただ好きなだけだよ、(魚肉)ソーセージが……」
その恍惚とした顔と、たった一言で会場の男性陣を黙らせる、探偵としてのその手腕……まさに流石としか言いようがありません!
「……アバズレという意味で、な」
「今、マイク通さないで何か酷い事言ったでしょ……?」
……さて、煩い外野は放置して、今回のルールを改めておさらい致しましょう!
皆さんにはこれから順番に、先生とポッキーゲームをして頂きます。
しかし、ただのポッキーゲームじゃ面白くないし刺激が足りないしサービスが悪い。
……と、先生が無理をおっしゃったので、今回は特別ルールとして、ポッキーの代わりに、先生の大好物である魚肉ソーセージを用意しました!
さぁ先生、思う存分しゃぶり尽くして食い尽くして下さいませね! ……皆様、あたぼうだという返事を頂きました!
おぉ、皆さん乗り気ですね。それでは、早速勝負に移りましょう。
実況は僭越ながら、先生の一番弟子で助手である、僕、脳噛が努めさせて頂きます!
今回の解説は、笛吹警視にお願いしました。どうぞ、宜しくお願いします。
「ふん、下らな……っ!」
「じゃ、さっさと咥えちゃいましょ匪口さん」
おっと、GOサインが出た途端、おもむろに先端を口に咥えてソーセージのパッケージを剥き始めました! 流石は先生、食欲がかかると節操がありません。
「ひぁ、ひふひぁん。ふいっ」
そうそう……ポッキーゲーム同様、咥えてから手を使ってはアウトですので、口にソーセージを咥えた状態で相手に差し出すしかありません。
「う……うん…」
匪口刑事、漸く視線を合わせましたか、心なしか前屈みの様子に見えますが……どうでしょう、笛吹さん?
「わっ、私に振るなっ!」
おっと、更に動きがあったようです。
「ふぉら、ふぉぃひーふえふよ? きぁいでふか?」
「ちょっ、ちょっと桂木!」
ソーセージを咥えさせられたまま放置プレイだった先生が空腹に堪えかね、匪口刑事の両手を掴んで顔を寄せました。
余りの空腹で既に口の端から唾液が滴ってます。これは道t……未成年にはキツいですね、ねぇ笛吹さん。
「だっ、だから私に振るなと……」
おっと、匪口刑事、覚悟を決めた様子で一気に食い付きました。
目をつむり、一気に食い付くそうという作戦に出たようです。しかし先生に食欲で負ける訳がありません。
まるで水を得た魚、ソーセージを殆ど丸呑みです。
「ぐっ、ふぅぅ……っ」
おっと、匪口刑事の口が急に止まりました、おっと、先生のあられのない声に薄目を開けてしまった!
喉に詰まったか、やや咳き込んでおります。
そして、同じように咳き込んでいる先生ですが、勢いが衰える事はありません。
涙目になりながらぐいぐいと顔を寄せて行きます。
これは生き地獄、逃げ場がありません。
さぁ、このピンチをその天才的な頭脳で解決出来るのか……楽しみですね笛吹警視!
「だから貴様っ、何でそういう時にばかり私に話を振るんだ、わざとか!?」
……お、そうこうしているうちに、匪口刑事が止まった地点まであと3センチとなりました。
これはもう決着がついたも同然ですね!
「……ククク、次は鳥肉でも使うか」
「? 貴様、何かいっ」
バキン。
「はふ……おれひぁった。んぐ」
「ッ……!」
「ひっ!?」
「………」