一個前と微妙に繋がる。
弥「そんな事言い出したらあんただって、女の子に暴言吐いたり理不尽な暴力を奮う時点で「紳士」なんかじゃ無いでしょうが!!」
ネ「ほう、ならば……毎日炊飯器3つを空にするレデ〜ィは普通にいるのか?」
弥「ううっ……。ハイハイっ! ここに居ますっ!!!」
ネ「……逆ギレの上、更に開き直りとは見苦しいな。この女にも届かぬ雌豚がッ」
弥「ハァっ!? 喙で人の頭にガジガジ噛り付く化け物に言われたくなんてないわよっ!!!」
ネ「……チッ」
弥「フーッ!!」
……勝手にやっとれ。
テーブルに置かれた金属のボールからスプーンで掬い取られて、小さな掌の上で丸い形に整えられるチョコレート。
それを器に敷かれたココアパウダーの上にそっと乗せ、華奢で細い指先が一個づつ丹念に転がして行く。
そうして完成して行くトリュフチョコレートと、その出来栄えに満足そうな笑みを浮かべ慎重に等間隔で箱に詰めて行く少女の様子を、匪口はただ無言で観察していた。が、
おもむろに粉が塗されたばかりの一つに手を延ばし──ぺちん、ココアで汚れた指先に軽く叩かれた。
「痛って−! 何も叩く事無いじゃん桂木の馬鹿っ!!」
茶色の縞模様がうっすら引かれた手の甲をもう一方の手で押さえ、わざと大袈裟に騒ぐ匪口を冷ややかに一瞥し、再びココアの器に向き直った弥子は溜め息と共にあきれたように言葉を吐き出した。
「……一体、馬鹿はどっちですか? …バレンタインの前日に、しかも連絡全く無しでいきなり家に尋ねて来て、その上「邪魔しないから−」って言って無理矢理上がり込んでいすわって!! も−…明日ちゃんと、綺麗にラッピングした奴をあげるつもりだったのにぃ……」
「い−じゃん、早く欲しかったんだもんさ」
「笹塚さんとかあの助手なんかより」という本音はとりあえず置いておき、にんまり笑ってみせる。
「てか、始めから貰える気満々でいたんですね……」
再び呆れ顔で嘆息する弥子の横から手を延ばした匪口は素早く口に放り込む。
「あ−っ! 本当、油断もスキも無いんだから……。待って下さい! もうすぐ箱に詰め終わりますから……」
本当に期待通りな少女の反応とチョコレートの甘さに思わず口許が緩んだ。
「い−よ、別にそのままで。 どうせ腹に入れば一緒だし」
「……こ−ゆ−のは贈る側の気持ちの問題なんですってば。本当、分かって無いんだから……っと。よし、出来たっ!」
付けていたエプソンで粉塗れになった手を軽く拭った弥子は、整然とチョコレートの並べられた小さな箱に蓋をし、素早くリボンをかけて、匪口に向き直る。
「では匪口さん、一日早いのはちょっと残念だけど……どうぞ!」
小首を傾げて、にっ、と微笑した少女と、受け取ったその箱の中身──彼女の手によって一つ一つ丹念に粉を塗され、丁寧に箱に並べられたチョコレートを見て初めて、先程、弥子が口を尖らせて言った、「気持ち」の意味が理解出来たような気がした。
「あ……りがと」
「や…ちょっ、何素で泣きそうになってるんですか……。何か、変なものや嫌いなものでも入ってましたか?」
「いや、いい。気にしないで本当! 大丈夫だから、てか、かなり美味かったら!」
「あ−、なら良かったです! これなら、笹塚さんとかも、喜んでくれるかな……?」
目を伏せホッ、と息を吐いた次の瞬間には身を屈め、じっと瞳を覗き込んで来る弥子に、今度は匪口が嘆息する番だった。
この愛らしい少女は相変わらず、自分へ向けられる「気持ち」には鈍いようだ。